かすいたいせんしゅ下垂体腺腫Pituitary adenoma
小児慢性疾患分類
- 疾患群1
- 悪性新生物群
- 大分類6
- 中枢神経系腫瘍
- 細分類81
- 下垂体腺腫
病気・治療解説
定義
下垂体前葉の実質細胞から構成される良性腫瘍(WHO グレードI)で、産生ホルモンの種類によって細分類される。直径10mmより大きいものを巨大腫瘍とし、10mm以下でトルコ鞍内に限局するものを微小腺腫とする。
疫学
成人に多く発生する腫瘍であるが、小児にも発生する。
日本脳神経外科学会による日本脳腫瘍統計によると、年齢別の発生頻度は5歳未満ではほとんど認められず、5歳から15歳までに1%、15歳から29歳までは15.1%で、この年齢層では女性が多い。
小児例ではプロラクチン産生腺腫が多く、次いでACTH、成長ホルモンなどホルモン産生腺腫が発生しやすく、ホルモン非産生腺腫は少ない。小児期には微小腺腫が多い。
症状
腫瘍の増大による症状としては、トルコ鞍内から上方に進展して視神経交叉を中央で圧迫し、左右対称性の両耳側半盲を呈し、トルコ鞍の左右に存在する海綿静脈洞へ側方進展することがある。ホルモン産生腺腫であれば微小腺腫でもホルモン症状を呈し、ホルモン非産生腺腫ではホルモン欠損症状を呈する。
プロラクチン産生腺腫では無月経や月経周期異常を来す。ACTH産生腺腫では肥満、低身長などの症状を呈する。成長ホルモン産生腺腫では巨人症の症状を呈し、同時にプロラクチンや甲状腺ホルモンを過剰に分泌するので、これらの症状を呈することがある。
診断
下垂体腺腫では尿崩症を呈することはまずないことから、トルコ鞍部に発生した他の腫瘍と鑑別できることがある。巨大腺腫ではトルコ鞍の拡大を認め、拡大したトルコ鞍から鞍上部槽にかけて辺縁が平滑な結節状の腫瘍で、CTでは淡い高信号領域で、均一な増強効果を呈する。
古い腫瘍内出血や壊死よって低吸収域が混在し、その場合は壁に沿ってリング状に増強効果を受ける。
頭蓋咽頭腫と異なり石灰化を伴うことは少ない。腫瘍内出血をきたす下垂体卒中を起こせば、出血による急速な視覚障害、ホルモン欠損症状を呈し、発症直後には著明な出血を認めることがある。
MRIT1強調画像で等信号または淡い低信号、T2強固画像ではさまざまな程度の高信号を呈する。腺腫内の小出血や梗塞などに起因する嚢胞様の液体を含む部分はT1では著明な低信号、T2では高信号となる。微小腺腫のトルコ鞍内での発生部位は、ダイナミックMRIの冠状断像で周囲の下垂体が造影される時期に造影されないことを利用したり、3テスラ―の造影MRIで診断が可能になってきている。
視床下部・下垂体系のホルモン分泌機能の術前、術後の評価は負荷テストなどにより行う。
治療
ホルモン産生腺腫の中でプロラクチン産生腺腫の場合、視神経障害に対し緊急の減圧処置が必要なければドパミンアゴニスト(カベルゴリンなど)による薬物治療が第一選択である。成長ホルモン産生腺腫、ACTH産生腺腫、TSH産生腺腫などのホルモン産生腺腫やホルモン非産生腺腫では外科的摘出が第一選択である。
手術方法としては、経蝶形骨手術に内視鏡を用い、術中の画像によるナビゲーションを利用して低侵襲的な手術法が普及してきたが、年少児では鼻腔が狭く、蝶形骨洞が小さいことを考慮して行う。また、術後の髄液漏を予防する処置を行う必要がある。
周囲組織への浸潤性の腫瘍であれば、放射線治療や薬物治療を試みる。
放射線治療では、再発予防に局所の分割照射を行う場合は45Gy以上の線量が必要とされ、再発率は減少するが、視神経、脳血管障害、二次がんの発生の可能性がある。定位放射線手術による非常に小さい範囲の照射も有効である。
しかし、成長ホルモン産生腺腫にはいずれの放射線治療でも効果の限界がある。ACTH産生腺腫に対する放射線治療での寛解率は80%から90%とされる。
術後のホルモン補充療法として、副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモンの補充が必要なことが多く、術後に尿崩症が発生すれば抗利尿ホルモンの補充が必要である。頭蓋咽頭腫の術後と同様に、副腎不全には注意が必要である。
予後
プロラクチン産生腺腫では薬物治療は89%が有効とされるが、薬物治療が無効な例や施行できない場合、微小腺腫では85%が摘出により改善する。ACTH産生腺腫では70%から98%が改善するが、長期予後としては50%から98%に留まる。
この腫瘍の術後は、通常副腎不全に陥るのでホルモン補充が重要である。10%の例は再発するとされ、再手術や放射線治療により汎下垂体機能低下症に陥りやすい。成長ホルモン産生腺腫では、外科的摘出により約60%の例のみが正常の成長ホルモンの血中濃度を達成できる。
文献
1)Committee of brain tumor registry of Japan(日本脳神経外科学会による日本脳腫瘍統計): Report of brain tumor registry of Japan (1969-1996) 11th edition, Neurologia medico-chirurgia: 43 (Supplement), 2003.
2)横田 晃監修、山崎麻美、坂本博昭編集:小児脳神経外科学、金芳堂、京都、2009.
3) 寺本 明、長村義之編集:下垂体腫瘍のすべて、医学書院、東京、2009.
4)日本脳外科学会・日本病理学会編:脳腫瘍取扱い規約 第3版、金原出版、東京、2010.
5)Keating RF, Goodrich JT, Packer RJ: Tumors of the pediatric central nervous system, second edition, Thieme, New York, 2013.
小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。
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