ぽいつ・じぇーがーす しょうこうぐんポイツ・ジェガース症候群Peutz-Jeghers syndrome
小児慢性疾患分類
- 疾患群12
- 慢性消化器疾患
- 大分類2
- ポリポーシス
- 細分類11
- ポイツ・ジェガース症候群
病気・治療解説
概要
ポイツ・ジェガース症候群は食道を除く全消化管の過誤腫性ポリポーシスと口唇、口腔、指尖部を中心とする皮膚、粘膜の色素斑を特徴とする常染色体優性遺伝性疾患である。発症者の約50%は家族歴がない孤発例である。本症候群でみられる過誤腫性ポリープは粘膜上皮の過誤腫的過形成、粘膜筋板からの平滑筋線維束の樹枝状増生が特徴であり、ポイツ・ジェガースポリープと呼ばれている。
病因
第19番染色体短腕上(19p13.3)に存在するLKB1/STK11遺伝子の突然変異が病因であると考えられているが、LKB1/STK11遺伝子変異によりどのような機序で過誤腫性ポリポーシスや色素斑をきたすのかは不明である。
疫学
国内の患者数は約600~2400人と推計される。
臨床症状
乳児期から口唇、口腔、指尖部などに1~5mmほどの色素斑が認められる。色素斑は長軸の向きが皮丘、皮溝の流れに一致している。
ポリープは食道を除く全消化管に認め、特に十二指腸から上部空腸に多く認められることが多い。小児期にポリープ自体の癌化リスクは低いが、ポリープ増大により、慢性出血による黒色便・血便・貧血、腸重積による急性腹痛・嘔吐、消化管通過障害による反復性腹痛・嘔吐・便通異常などの症状を呈する。幼児期に腸重積を契機に診断される症例もある。
検査所見
消化管ポリープが増大し、慢性出血をきたすと便潜血陽性、血液検査で貧血の所見を認める。
上部消化管内視鏡検査、大腸内視鏡検査、小腸内視鏡検査(小腸カプセル内視鏡検査またはバルーン小腸内視鏡検査)で多発性のポリープを認める。
切除されたポリープの病理組織所見は、過誤腫性ポリープであり、粘膜上皮の過誤腫的過形成、粘膜筋板からの平滑筋線維束の樹枝状増生が特徴である。
診断の際の留意点
家族性腺腫性ポリポージス、若年性ポリポーシス、カウデン症候群などの、消化管ポリポーシスをきたす他の疾患との鑑別に留意する。
治療
根治のための治療法はない。
消化管出血や腸重積の予防のために、内視鏡的ポリープ切除術を行なう。小腸ポリープによる腸重積は9歳以降に増加するため、遅くとも8歳ごろまでに症状の有無に関わらず全消化管を内視鏡検査で観察し、直径15mm以上のポリープは腸重積発症の危険性があり、積極的に内視鏡的切除を行うことが望ましい。近年、バルーン小腸内視鏡の開発・普及により、概ね2~3歳以上の小児であれば深部小腸に存在するポリープの摘除が可能である。このため小腸内視鏡検査が施行可能な専門の施設での診断、治療、経過観察が望ましい。ただし、腹部手術の既往のある症例では、腸管の癒着のため深部小腸へのバルーン小腸内視鏡の到達が困難なことがある。
ポイツ・ジェガースポリープによる腸重積は、小腸ポリープが原因となることが多く、小腸-小腸型腸重積を発症した際には外科的(または内視鏡的)な腸重積の整復とポリープ切除を行なう。
ひとたびポリープの切除を行っても新たなポリープが次々に発生する。症例ごとにポリープの発育速度は異なっており、その発育速度に応じて定期的(おおむね6か月から数年ごと)に内視鏡を行い、繰り返し内視鏡的切除を行うことで腸重積発症や開腹手術を回避するよう治療する。
合併症
小腸ポリープによる腸重積の発症は9歳以降に増加し、10歳までに15%、20歳までに50%に合併する。
消化管、膵臓、乳房、精巣、卵巣・子宮頸部の悪性腫瘍を20歳までに1~2%が発症するリスクがある。小児期の性腺腫瘍は、性ホルモンを分泌すると思春期早発症や女性化乳房を伴うことがある。
予後
腸重積に対して開腹手術を繰り返し行われた症例では術後癒着による腸閉塞を繰り返し、短腸症候群を合併する可能性があり、その後のQOLが著明に低下する。
術後癒着を来した症例では癒着により内視鏡の深部挿入が困難になり、全小腸の内視鏡治療が困難になることもまれではない。このため、家族歴や色素斑から本症の確実例または疑われる小児に対し、症状が出現する前から小腸を含む全消化管のポリープの診断、治療、経過観察を行い、開腹手術を回避することができれば、日常生活に大きな悪影響を及ぼすことはない。小腸内視鏡検査が施行可能な専門の施設での診断、治療、経過観察が重要である。
消化管を含めた悪性腫瘍発症の高危険群であり、定期的なサーベイランスが必要である。
成人期以降の注意点
消化管ポリポーシスに対する内視鏡検査と治療は、成人期以降も継続が必要である。
消化管を含めた悪性腫瘍発症の高危険群であり、消化管、膵臓、乳房、精巣、卵巣、肺の悪性腫瘍を50歳までに30%、70歳までに80%の頻度で合併するとの報告があり、定期的なサーベイランスが必要である。
参考文献
厚労省難治性疾患政策研究事業 「消化管良性多発腫瘍好発疾患の医療水準向上のための研究(H27-難治等(難)-一般-003)」 研究代表者 石川秀樹
日本消化器病学会編.大腸ポリープ診療ガイドライン2014. 南江堂,東京,pp144-5.
Beggs AD, Latchford AR, Vasen H, et al. Peutz-Jeghers syndrome: a systematic review and recommendations for management. Gut. 2010;59:975-86.
Achatz MI, Porter CC, Brugières L, et al. Cancer Screening Recommendations and Clinical Management of Inherited Gastrointestinal Cancer Syndromes in Childhood. Clin Cancer Res. 2017;23:e107-e114.
小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。
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