みぶんかしんけいがいはいようせいしゅよう (まっしょうせいのものにかぎる。)未分化神経外胚葉性腫瘍(末梢性のものに限る。)Peripheral primitive neuroectodermal tumors
小児慢性疾患分類
- 疾患群1
- 悪性新生物群
- 大分類5
- 固形腫瘍(中枢神経系腫瘍を除く。)
- 細分類41
- 未分化神経外胚葉性腫瘍(末梢性のものに限る。)
病気・治療解説
概要
Ewing肉腫 (Ewing’s Sarcoma)は、小児期から青年期に最も多く発症する肉腫で、1921年Ewingにより病理学的に小円形腫瘍細胞として骨の古典的ユーイング肉腫として報告されている。この古典的ユーイング肉腫と末梢性神経外胚葉性腫瘍(peripheral primitive neuroectodermal tumor, PNET)、胸壁アスキン腫瘍(Askin tumor)は、分子生物学的研究により間葉系幹細胞から発生する同一の遺伝子変異、EWS-FLI-1 (85%)、EWS-ERG (10%)、EWS-ETV1、EWS-EIAF、EWS-FEVなどのキメラ遺伝子を有する疾患である事が明らかとなり、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(Ewing’s sarcoma family of tumors, ESFT)と呼ばれている。診断は、病理学的診断に加え分子生物学的診断を行うことでより確実となる。病期は、限局例と転移例に分類され、予後も明らかに異なっている。治療法は、化学療法の進歩とともに治療成績の改善を認めており、外科治療、放射線治療と組み合わせた集学的治療が行われている。
疫学
発症年齢は、10代が中心で、15歳前後に多く、5歳から30歳までで90%を占める。男女比は、1.3 : 1 と、やや男性に多い。発生頻度は、米国では、100万人に対して3人程度の発生、毎年、約250名が発症する。一方、本邦では、日本整形外科学会骨軟部腫瘍委員会からの2011年度登録報告では38例、2006年〜2011年度の登録では188例であった。人種的には、アジア系より白人系に多い。
発症部位は、骨原発の場合は、骨盤(25%)、大腿(16%)、脛骨/腓骨(14%)、胸壁(12%)、上肢(8%)、脊椎(8%)などに発症し、骨外性は、筋肉などの軟部組織に発症し、頻度は1%以下である。限局例は75-80%、転移例は20-25%を占め、転移部位は肺、骨、骨髄が多く、リンパ節、肝臓、中枢神経への転移は、非常にまれである。
病因
近年、分子遺伝学の進歩により、22番染色体のバンドq12にあるEWS遺伝子座の変異が同定された。腫瘍細胞からは、t(11;22)(q24;q12)によるEWS-FLI-1 (85%)、t(21;22)(q22;q12)によるEWS-ERG (10%)、7番染色体に位置するEWS-ETV1、17番染色体に位置するEWS-EIAF、2番染色体のEWS-FEVなどのキメラ遺伝子が同定されている。これらのキメラ遺伝子は転写因子活性を有しており、腫瘍の発生,浸潤や転移に関与するものと考えられている。
症状
症状は、ほとんどが病変部の間欠的な痛みから始まり、夜間などに次第に増強し、腫瘤として触知する。しばしば、症状が痛みだけのこともあり、成長痛やスポーツによる外傷と間違えられたり、骨髄炎や腱鞘炎と診断されることもある。病状が増悪してくると発熱、体重減少などを伴う。骨盤、胸壁、大腿骨などは、腫瘤が触知されにくく診断が遅れることも多い。脊椎原発の場合は、歩行障害で発症することもある。発症部位は、骨肉腫と異なり、長管骨では骨幹端部より骨幹部に発症することが多い。5歳以下の発症は希であるが、神経芽腫と同様の症状を来すことがあり注意が必要である。
治療
治療は、全身化学療法、手術療法、放射線治療を含めた集学的治療が行われる。予後因子としては、明らかな予後不良因子は転移例であるが、複数の転移部位があると、予後はさらに不良となる。局所例においての予後不良因子は、骨盤や体幹部の発症、診断時年齢が15歳以上、腫瘍体積200ml以上、腫瘍径が8cm 以上、化学療法に対する組織学的奏効度の不良例、診断時から2年以内の再発例などが明らかとなっている。
(1) 限局例
1) 化学療法
限局例であっても、全身に微小腫瘍細胞が転移していると考え、全身化学療法(4〜6サイクル)を施行後、原発部位の切除を行い、切除範囲、組織学的奏効度により放射線照射を決定する。治療に用いられる有効な抗腫瘍剤は、主にVCR(Vincristin),DXR(Doxorubicin),Act-D(ActinomycinD),CPM(Cyclophosphamide),IFM(Ifosfamide),VP-16(Etoposide)が用いられる。
米国では、VCR, DXR, CPM (VDC)とIFM, VP-16 (IE)の交互療法が行われている。最近、このVDC-IE療法の治療間隔を従来の3週間からG-CSFを併用し2週間間隔に短縮した治療で、さらに予後の改善を認めている。
欧州では、大規模共同臨床研究EURO-E.W.I.N.G.92が行われた。限局例、転移例を含めた同一多剤併用化学療法としてVCR, IFM, DXR, VP-16 (VIDE)を6コース施行後、リスクにより治療法を層別化し、造血幹細胞移植を含めた比較試験が行われた。まだ、全体の成績は報告されていないが、VIDE療法の安全性6)やリスク分類による治療層別化の有用性などが報告されている。
造血幹細胞移植を検討した報告は少ないが、最近、大量化学療法を用いた限局例300例の解析では、化学療法に対する組織学的奏効不良群には、造血幹細胞移植を施行した方が、治療成績が改善したとの報告もあり、大量化学療法も治療選択の一つになり得る可能性がある。
2) 外科療法、放射線療法
放射線感受性が非常に高い腫瘍であることが知られており、放射線治療は化学療法の導入以前からESFTに対する外科療法と共に局所治療の一環として用いられてきた。これらにより切断術の回避や患肢温存による機能温存、局所制御が可能になった。放射線治療の線量は、50-60Gyが根治量であるが、手術での切除度合いにより臨床試験毎に幅がある。基本的な外科療法と放射線療法の関係は、広範切除で組織学的奏効が良好な場合は、照射は必要としない。しかし、広範切除でも組織学的奏効が不良な場合、腫瘍内切除、または辺縁切除の場合は、術後放射線治療を併用した方が局所制御は良好である。
(2) 転移例
転移例に対する標準的治療は確立されていない。前述したVDC-IE療法、または、VAIA(VCR,IFM, DXR, Act-D )療法、VIDE療法 に外科治療、放射線治療を行う集学的治療を行う。VDC-IE療法のDXR、CPMを増量しても、無病生存率の改善は得られず、治療関連死や二次がんが増えている。
転移部位の局所制御は、非常に重要である。肺転移例では、EICESS研究において、病巣側への全肺照射群(15-18Gy)と非照射群では、照射群の方が予後は良好であった。また、最近のEURO-E.W.I.N.G.92の報告では、診断時に多発性転移を認める症例でも、原発部位、転移部位に対して外科治療や放射線治療などの局所治療を行った方が、予後が良いことが報告されている。
造血幹細胞移植併用大量化学療法は、現在でも有効性に関しては、議論のあるところである。一部の症例で移植適応を限定し、化学療法に反応性が良く、移植時に完全寛解である移植例は、治療成績の改善を認めている。
予後
限局例に対する治療成績は、VDC-IE療法、VAIA療法では、3〜5年無病生存率 (Event free survival、EFS)は、70%前後である。VDC-IE療法 をG-CSFを用いて2週毎に治療期間の短縮を行うと、5年EFSは従来のVDC-IE療法と比較し、予後の改善を認めている。転移例に対する治療成績の報告の多くは、全生存率は25%前後にとどまる。
ESFTに対する集学的治療は、アルキル化剤やトポイソメラーゼII阻害剤を含む多剤併用化学療法に外科療法、放射線治療を併用することにより予後の改善が図られてきた。一方、これら抗がん剤および放射線治療による治療関連性の二次がんの報告を認める。
二次がんの発症頻度は様々で、1〜6%である。発症するがん種は、抗がん剤によると考えられる治療関連性白血病や治療関連性骨髄異形成症候群(t-MDS)は、比較的早期の治療終了後1年から6年頃に、放射線照射による肉腫は、比較的晩期の10年後以降に発症してくる。
文献
教科書
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