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HSD10びょう
HSD10病HSD10 disease

小児慢性疾患分類

疾患群-
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[Orpha番号:ORPHA391417]

HSD10病(HSD10 disease)は、進行性の神経変性、てんかん、網膜症、および進行性の心筋症を特徴とする、生命を脅かすまれな神経代謝性疾患である。

病気・治療解説

疫学

有病率は不明である。現在までに世界で報告されている症例は40例未満である。

臨床像

HSD10病は、いくつかの臨床病型がある多様な疾患であり、男性でのみ重度の臨床像を呈し、女性は無症状であるか、非進行性の認知障害(学習障害から知的障害まで幅がある)と多様な神経学的異常を呈する。HSD10病の乳児型が古典的な臨床像である。罹患した男児では新生児期に嗜眠、哺乳不良、およびミトコンドリア機能異常の所見を呈し、それに続いて軽度の発達遅滞および筋緊張の異常が現れる。本疾患に特有の症候は進行性の神経変性および心筋症であり、通常は生後6カ月から2歳までの間に認知機能および運動技能の低下、てんかん、失明に至る進行性の視覚障害、難聴などを伴って現れる。神経変性が進行するにつれ、進行性の運動失調、舞踏病アテトーゼ、および不穏を呈するようになる。本疾患は一般に致死的であり、通常は2~4歳で死に至る。臨床検査所見としては、乳酸アシドーシス、低血糖、高アンモニア血症、特定の有機酸の尿中排泄亢進などがある。HSD10病の新生児型は最も重症の病型である。その特徴は新生児期の重度の代謝性/乳酸アシドーシス、不良な神経学的発達、重度かつ進行性の心筋症、および生後数カ月での死亡である。HSD10病の他の病型は、それほど明確に定義されていないが、通常は軽症型である。多様な神経および行動症状、知的障害(非進行性の場合がある)、多様な代謝性/非神経症候を呈することもあれば、無症状のこともある。

病因

HSD10病の大半は、3-ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ2型をコードするHSD17B10遺伝子(Xp11.22)のミスセンス変異に起因する。このミトコンドリア蛋白には少なくとも次の2つの機能がある:(a)ミトコンドリアリボヌクレアーゼ(RNase)Pを構成する3つの蛋白のうちの1つであり、ポリシストロン性のmtDNA転写産物をmRNA配列とtRNA配列の間で切断するのに必要である;(b)この酵素のデヒドロゲナーゼとしての機能は、イソロイシンの代謝において2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸(MHBD)の分解に必要とされ、神経活性ステロイドなど他の代謝物に対する活性をもつ可能性がある。HSD17B10遺伝子にnull変異があると、生存できない。HSD10病の臨床像は、ミトコンドリア機能障害につながるRNase Pの異常に起因すると考えられているが、典型的な尿中有機酸所見などの代謝性の異常は、デヒドロゲナーゼの機能障害によって引き起こされる。

診断方法

診断は尿中有機酸分析および分子遺伝学的解析の結果に基づく。イソロイシン代謝物レベルの上昇(特に2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸およびチグリルグリシンの上昇がみられ、メチルアセト酢酸は正常値となる)は、本疾患の指標となる所見であるが、これらはRNase Pではなくデヒドロゲナーゼの機能障害を反映するものである。HSD10病では、生化学的異常を認めない患者もいれば、デヒドロゲナーゼのみの機能障害があって、症状はわずかであるか認められない場合もある。顕微鏡下でクリステを欠く丸みを帯びたミトコンドリアが観察されるなど、ミトコンドリア異常を示す生化学的または組織学的所見がしばしば認められる。確定診断は、遺伝子解析によって疾患を引き起こす機能を低下させる変異(hypomorphic mutation)を同定することによる。

鑑別診断

生化学検査での異常所見はβ-ケトチオラーゼ欠損症に類似する場合がある。臨床像の異常はmtDNAの転写過程に影響を及ぼす他の疾患、特にELAC2に関連する疾患(combined oxidative phosphorylation defect type 17)に類似する。

出生前診断

分子遺伝学的解析により出生前診断が可能である。

遺伝カウンセリング

HSD10病はX連鎖の遺伝形式に従い、女性では多様な臨床像を示す。リスクのある家族には遺伝カウンセリングを提案すべきである。

管理および治療

現在のところ、本疾患に対する有効な治療法はない。低蛋白・高エネルギー食とカルニチンの補充により、血中および尿中へのイソロイシン代謝物の蓄積が減少するが、精神運動機能の低下が改善することはない。バルプロ酸は、ミトコンドリアでのエネルギー代謝を阻害するため、使用を避けるべきである。

予後

予後は不良であり、新生児型および乳児型で特に不良である。本疾患の軽症型または無症状の患者の予後は現在のところ不明である。

翻訳情報

専門家による英語原文の校閲
Pr Johannes ZSCHOCKE
日本語翻訳版の監訳
深尾 敏幸(難治性疾患政策研究班「先天代謝異常症の生涯にわたる診療支援を目指したガイドラインの作成・改訂および診療体制の整備に向けた調査研究」)
日本語版URL
https://www.orpha.net/data/patho/Pro/other/HSD10byo_JP_ja_PRO_ORPHA391417.pdf
英語原文URL
http://www.orpha.net/consor/cgi-bin/OC_Exp.php?lng=EN&Expert=391417

最終更新日:2018年10月
翻訳日:2019年2月

本要約の翻訳は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)からの資金援助の下で行われています。

注意事項

※本要約は情報の提供を唯一の目的として公開しているものです。専門医による医学的ケアの代わりとなるものではありません。本要約を診断や治療の根拠とすることはお控えください。

※この情報は、フランスのOrphanetから提供されており、原文(英語)がそのまま日本語に翻訳されています。このため、診断(出生前診断・着床前診断を含む)・治療・遺伝カウンセリング等に関する内容が日本の現状と合っていない場合や国内で配信されている他の媒体と一部の内容が異なる場合があります。保険適用に関する診断基準など、国内の医療制度に準拠した情報が必要な場合は、厚生労働省の補助事業により運営されている難病情報センターや小児慢性特定疾病情報センター等の専門情報センターのホームページをご参照ください。

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