むこたとうしょういちがたムコ多糖症Ⅰ型Mucopolysaccharidosis
小児慢性疾患分類
- 疾患群8
- 先天性代謝異常
- 大分類6
- ライソゾーム病
- 細分類75
- ムコ多糖症Ⅰ型
病気・治療解説
概要
グリコサミノグリカンのデルマタン硫酸(DS)とヘパラン硫酸(HS)の分解に必要なライソゾーム酵素であるα-L-iduronidase の先天的欠損により発症する常染色体劣性遺伝性疾患である。
疫学
発症頻度は、約10万人にひとりとされている。日本では、約70症例が報告されている。
病因
発症時期、重症度から、3病型に分類されるが、それらの病型の境界は、明瞭ではない。
① MPS IH(Hurler病) 発症時期が最も早く、病態の進行も早い、最重症型である。生直後から、特徴的な粗な顔貌(大きな頭、前額の突出、巨舌)、胸郭の変形、肝脾腫、広汎で体全体に広がる蒙古斑などを認める。乳児期には、精神発達遅滞、心臓弁膜症、さいヘルニア、ソケイヘルニア、騒音呼吸、反復性中耳炎、角膜混濁、関節可動域制限などが次第に明らかになる。乳幼児期は加成長を呈するが、3歳ごろから成長が鈍化し、低身長に転ずる。
② MPS IS(Scheie病):発症時期が遅く病態の進行も緩徐である。特異的顔貌、角膜混濁、緑内障、閉塞性呼吸障害、心臓弁膜症、肝臓、脾臓の腫大、関節可動域性制限、臍ヘルニア、そけいヘルニアなどの全身症状が学童期以降に出現し加齢とともに進行するが、知的障害を伴わないのが特徴的である。
③ MPS IH/S (Hurler-Scheie病): MPS IH(Hurler病)とMPS IS(Scheie病)のほぼ中間の臨床像を示す。
症状
特異的顔貌、精神運動発達障害、神経学的退行、角膜混濁、緑内障、繰り返す中耳炎、難聴、骨形成不全、閉塞性呼吸障害、心臓弁膜症、肝臓、脾臓の腫大、関節可動域性制限、臍ヘルニア、そけいヘルニア、などの全身症状を呈する。進行性疾患で加齢とともに重症化する。乳児期、幼児期は、加成長を呈する症例が多いが、3-4歳以降は、成長速度は低下し、低身長に転ずる。
診断
ムコ多糖の過剰蓄積は、尿中ムコ多糖の定量で判定する。尿中ムコ多糖の分画から、病型をある程度予測できるが、最終的には、血液あるいは培養皮膚線維芽細胞などで酵素活性の低下を証明し確定診断とする。遺伝子診断は、診断を確定するのに必須ではないが重症度の予後判定や家族内の保因者診断や発端者の同胞の出生前診断には有用である。
① 画像検査:全身骨X線で、Dysostosis Multiplexという多彩な骨形成異常を認める。頭蓋骨肥厚、トルコ鞍拡大、腰椎卵円化、オール状肋骨、砲弾様指骨、中手骨近位端の先細り、大腿骨頭異形成などを認める。頭部MRIでは脳室拡大、血管周囲腔の空泡状変化が認められる。
② 尿中ムコ多糖定量:尿中ウロン酸の排泄量が増加する。分画では、DSとHSの増加を認める。
③ α-L-iduronidaseの酵素活性定量:白血球、培養線維芽細胞などで活性低下が認められる。残存活性で重症度を区別することは困難である。
④ α-L-iduronidase の遺伝子変異の同定:日本人では、遺伝子変異のホットスポットはない。ミスセンス変異、ナンセンス変異、欠失、スプライス変異、フレームシフトなど変異のパターンは多彩であり、100種類以上の変異が報告されている。
治療
対症療法と原因治療がある。後者としては、酵素補充療法と造血細胞移植がある。
予後
病初期に発見し早期に治療を開始しえた症例では比較的予後がいい。
成人期以降
酵素補充療法や造血細胞移植を行った症例でも、病気の進行を完全に止めることはできない。
参考文献
厚生労働省難治性疾患等政策研究事業ライソゾーム病に関する調査研究班編集「ライソゾーム病・ペルオキシソーム病診断の手引き」診断と治療社(2015)
小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。