めさんぎうむぞうしょくせいしきゅうたいじんえん (あいじーえーじんしょうをのぞく。)メサンギウム増殖性糸球体腎炎(IgA腎症を除く。)Mesangial proliferative glomerulonephritis; MesPGN
小児慢性疾患分類
- 疾患群2
- 慢性腎疾患
- 大分類2
- 慢性糸球体腎炎
- 細分類9
- メサンギウム増殖性糸球体腎炎(IgA腎症を除く。)
病気・治療解説
概要
びまん性全節性のメサンギウム細胞の増殖とメサンギウム基質の増生を呈する病変である。MesPGNを呈する疾患は多彩であり,全身性疾患に伴うものと伴わないもの(原発性)に分類される(表)(1)。MesPGNのうち,蛍光抗体法にてメサンギウム領域にIgA,補体C3の類粒状沈着が他の免疫グロブリンよりも優位に認められるものがIgA腎症であり,原発性のMesPGNでは最も多い。IgA腎症以外のものはnon-IgA腎症と呼ばれ,IgM腎症やC1q腎症,蛍光抗体が陰性のものなどが含まれている。
表 メサンギウム増殖性糸球体腎炎を呈する疾患(1)
症状
わが国では,学校検尿や健康診断などの偶然の機会に,無症候性の顕微鏡的血尿やタンパク尿によって発見されることが多いが時に高血圧や浮腫などの急性腎炎様の症状や肉眼的血尿,ネフローゼ症候群で発見されることもある。non-IgA腎症とIgA腎症の間では発症様式や症状などに,大きな違いは認められない。血液検査所見では,血清補体価の低下はなく,特異的な自己抗体も存在しない。
診断と鑑別診断
MesPGNは光顕組織によって定義される疾患であるため,確定診断には腎生検が不可欠である。メサンギウム細胞の増殖とは,1つのメサンギウム領域に細胞が4個以上(ループス腎炎では3個以上)みられるものと定義されている。その評価は,厚さ2μmの標本において,糸球体血管極から離れた末梢のメサンギウム領域でなされなければならない。
MesPGNではまたBowman嚢との癒着,分節性の硬化を示すことがある。光顕所見から鑑別を要する疾患は,管内増殖性糸球体腎炎(溶連菌感染後糸球体腎炎),膜性増殖性糸球体腎炎,微小変化群や巣状糸球体硬化症などである。
MesPGNではメサンギウム細胞の増殖が高度になると基底膜内皮下へ侵入することがあるが内皮細胞の増殖はなく,糸球体毛細血管腔は開存するため管内増殖性糸球体腎炎との鑑別が可能である。また,係蹄壁の肥厚もきたさないことから膜性増殖性糸球体腎炎との鑑別も可能である。微小変化群や巣状糸球体硬化症ではメサンギウム細胞の軽度の増殖を認めることがあり,ネフローゼ症候群を呈するMesPGNではこれらの疾患との鑑別が困難な場合がある。
蛍光抗体法では,免疫グロブリン,補体のいずれの沈着も認めないものと,IgA,IgG,IgM,C3,C1qなどが主にメサンギウム領域と一部の係蹄壁に順粒状沈着として認められるものとがある。
付)IgM腎症
IgM腎症は,Cohenら(2)とBhasinら(3)が1978年に提唱した概念で,光顕ではメサンギウム細胞の増殖および基質の増生が軽度から中等度に認められ,蛍光抗体法ではメサンギウム領域にIgMの優位な沈着を示す糸球体腎炎である。微小変化群や巣状糸球体硬化症では,前述のごとくメサンギウム細胞の軽度の増殖を認める症例があるがメサンギウム領域にIgMの沈着を認めるものもあり,それらとIgM腎症の鑑別は非常に困難である,CohenらとBhasinらの報告でも高度なタンパク尿を伴うIgM腎症が多く,その申には微小変化群や巣状糸球体硬化症も含まれていた可能性が推察される.したがって現在ではIgM腎症は独立した疾患ではないとする意見が多い。
付)Clq腎症
Clq症はJennetteとHipp (4)が1985年に提唱した概念で,蛍光抗体法でメサンギウム領域にClqが優位に,あるいは他の免疫グロブリンや補体と同程度に沈着し,かつ血清学的検査や臨床的に全身性エリテマトーデスの所見を認めないという糸球体腎炎である,久野らは,Clq腎症は若年者に多く(平均19.6歳),15,634例の腎生検のうち58例(0.4%)に,小児においては2,221例の腎生検のうち30例(1.4%)に認め,無症候性血尿,タンパク尿を主訴とした症例が約60%,ネフローゼ症候群を呈する症例が約40%であったと報告している(5)。光顕所見について,JennetteとHippは,微小変化群および巣状あるいはびまん性MesPGNであると報告しているが近年の報告では巣状糸球体硬化症が多い(6)。電顕所見ではメサンギウム領域にEDDを認める.ネフローゼ症候群を呈する症例は頻回再発を示すことが多い(7)。
治療と予後
MesPGNでは,顕微鏡的血尿はあってもタンパク尿が軽微で組織所見も軽度な症例は予後良好であり,特別な治療は必要としない。しかし,高度なタンパク尿を呈する症例や高血圧を合併する症例の予後は不良で数年のうちに末期腎不全へと進行するものもある。治療法は確立されていないが通常IgA腎症と同様に,アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬),アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)による血圧コントロールと抗血小板薬,副腎皮質ステロイドの投与を行う。高度なタンパク尿を伴うMesPGNでは巣状糸球体硬化症との鑑別が困難な場合があり,それらの疾患の可能性を念頭に置いて治療を行う必要がある(1)。すなわち経ロステロイド療法やステロイドパルス療法を行う。ステロイド抵抗性あるいはステロイド依存性の症例には,シクロスポリンなどの免疫抑制剤を使用することもあるが有効性は十分に検討されていない。
文献
1) Silva FG. Mesangial proliferatlve glomerulonephritiw. In Heptinstall’s Pathology of the Kidney, 5th edition (ed by Jennette JC et al. p455-478, Lippincott-Raven, Philadelphia, 1998
2) Cohen AH, Border WA, Glassock RJ. Nehprotic syndrome with glomerular mesangial IgM deposits. Lab Invest 38:610-619, 1978
3) Bhasin HK, Abuelo JG, Nayak R, Esparza AR. Mesangial proliferative glomerulonephritis. Lab Invest 39:21-29, 1978
4) Jennette JC, Hipp CG. C1q nephropathy: a distinct pathologic entity usually causing nephrotic syndrome. Am J Kidney Dis 6:103-110, 1985
5) Hisano S, Fukuma Y, Segawa Y, et al. Clinicopathologic correlation and outcome of C1q nephropathy. Clin J Am Soc Nephrol 3:1637-1643, 2008
6) Markowitz GS, Schwimmer JA, Stokes MB, et al. C1q nephropathy: a variant of focal segmental glomerulosclerosis. Kidney Int 64:1232-1240, 2003
小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。
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