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りぽたんぱくしきゅうたいしょう
リポタンパク糸球体症Lipoprotein glomerulopathy

小児慢性疾患分類

疾患群2
慢性腎疾患
大分類2
慢性糸球体腎炎
細分類21
リポタンパク糸球体症

病気・治療解説

概要

リポ蛋白糸球体症(lipoprotein glomerulopathy; LPG)は、糸球体内にリポ蛋白を含む血栓様物質が出現する、特異的な腎障害を示す原発性脂質代謝異常症で、1986 年に日本で初めて発見され1989年に症例報告がなされ(1)、現在までに日本や中国をはじめとした世界各国で150症例ほど報告されている稀な疾患である(2)。組織学的には拡張した糸球体血管腔に網状の淡染性物質であるリポ蛋白が血栓状に充満する特異的な像を呈する。生化学的特徴としてⅢ型高脂血症類似の所見や血清アポ蛋白(アポ)E高値を示す。その原因として、さまざまなヘテロ接合体のApoE遺伝子変異が報告されているが、未発症保因者もおり、他の要因の関与が示唆されている。臨床的には、蛋白尿で発症し、ネフローゼ症候群を経て約半数が慢性腎不全に至り、腎移植をしても再発し移植腎が廃絶に至る予後不良な疾患であるが(3, 4)、近年、治療法としてフィブラートを中心とした高脂血症改善薬が有用であることが明らかになってきている(5,6, 7)。

病因

LPG症例の多くで、古典的なアポE2とは異なる多型性のヘテロ型ApoE変異を保有することから、それらを含むリポ蛋白の直接的な糸球体障害が考えられてきた(3)。しかし、遺伝子変異の保因者がすべて発症するわけではなく他の要因の関与も示唆されている(2, 3, 8)。

疫学

1989年に初めて報告された疾患で(1)、以来東日本を中心に国内各地で症例報告され、その後西日本でも症例が知られるようになった。海外でも香港を含む中国、台湾など東アジアから症例報告があり、さらにフランスやイタリア、米国から白人における症例も報告され、現在までの報告数は約150例に及んでいる(2, 8)。

臨床症状

LPGの多くは検診の無症候性蛋白尿で発見されるが、ネフローゼ症候群として発症することも少なくない。発見当初は軽度の蛋白尿であるが最終的にはネフローゼとなるものが多いとされる。血尿はほとんどない。発症例の約半数が1~27年の経過で末期腎不全に至る。腎不全症例への腎移植の報告ではLPGの再発を認めている。
脂質異常との関連を認めるが、通常の脂質異常症にみられる弓状の角膜混濁、黄色腫、アキレス腱肥厚、動脈硬化などは明らかでない(3,4, 9)。

検査所見

【尿所見】
無症候性蛋白尿で発見されることが多いがネフローゼ症候群としての発症も少なくない。一方、血尿はほとんどない(3,4)。

【血液生化学所見】
ほとんどの症例でトリグリセリド優位の高脂血症を示し、超遠心法によるリポタンパク分析では超低比重リポタンパク(VLDL)と中間比重リポタンパク(IDL)が高値で、電気泳動法ではそれに相当するブロードβ分画の存在が確認される。しかし家族性Ⅲ型高リポ蛋白血症に比較してトリグリセライドやコレステロールの上昇は著しくない。また血清アポE値は正常上限の2倍以上であるが、時に血液における脂質やリポタンパクの異常所見が明らかでない場合もある(3,4)。

【病理学的所見】
光学顕微鏡では網状の淡染色性物質により糸球体係蹄腔は著しく拡張するが、腎リピドーシスを特徴づけている泡沫細胞は通常みられない。電子顕微鏡では、糸球体毛細血管内にさまざまな大きさの顆粒が同心円状に充満した特徴的な組織像を示す。凍結切片において、蛍光抗体法ではアポBとアポEの沈着がみられ、またズダンやオイルレッドO染色では血栓状の脂肪滴の沈着が糸球体係蹄内に認められる(3,4)。

診断の際の留意点

2006年に我が国より提唱された基準(3,4)がコンセンサスを得ている。さらに確定するためにはApoE遺伝子のDNAシーケンス分析を行うことが望ましい。
ただ、まれには高脂血症を伴わない症例(10)やApoE遺伝子変異を認めない症例(11)もあり、注意を要する。

治療

種々の治療が試みられているが、症例報告のみで確立したものはないとされてきたが、フィブラートを含む脂質代謝改善薬のカクテル療法によって、本疾患の尿蛋白が改善し、組織学上もリポ蛋白血栓が消失し得ることが報告されており( 5, 12, 13)、フィブラート使用群と非使用群で比較して、腎予後、生命予後ともに有意に上回ったとする報告もある(6)。スタチンは多くの例で併用されてきたが、それ単独で有効であったという報告はごく一部に限られる。
アフェレシスもしばしば試みられているが、その効果は明らかではない(7,14)。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI) やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は本疾患に特異的に有効性を報告したものはないが、蛋白尿を伴うほかの腎疾患同様に、尿蛋白減少効果と腎機能障害の進行抑制効果を期待されその投与が推奨されている(15)。
なお、ステロイド類、免疫抑制薬、抗凝固薬など、ネフローゼ症候群に対する通常の治療は無効である(3)。
腎不全例に対する腎移植は、フランスとアメリカで屍体腎移植が、日本では2例に血縁者からの生体腎移植が行われたが、4例いずれもLPG再発が報告されており、有効であるとは言い難い(16, 17)。

予後

無症候性蛋白尿で発見されたような症例でもネフローゼ症候群になる症例は少なくない。また約半数が末期腎不全に至っており予後不良である(3, 9)。

成人期以降の注意点

発症時の年齢が4-69歳と広く分布すると報告されているが、平均発症年齢が32歳であるため、小児期発症例自体が稀であり、長期予後は不明である。

参考文献

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斉藤喬雄、松永彰、中島 衡. 脂質異常を伴う腎疾患 リポ蛋白糸球体症における新たな展開.日本腎臓学会誌 55巻7号:1314-1319, 2013
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佐藤光博、家入但夫、堀田修、千葉茂実、堀籠郁夫、鳴海かほり、金城孝典、佐藤壽伸. リポ蛋白糸球体症とその治療. 腎と透析 Vol.77 No.3 353-357, 2014

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