らーせんしょうこうぐんラーセン症候群Larsen syndrome
小児慢性疾患分類
- 疾患群15
- 骨系統疾患
- 大分類2
- 骨系統疾患
- 細分類13
- ラーセン症候群
病気・治療解説
概要
顔貌異常を伴った多発性先天性脱臼を有する疾患として、1950年ラーセンによりはじめて報告された。
間葉系結合組織の形成異常が主因と考えられ、先天性・多発性の骨および関節異常をきたす。
臨床的には顔貌異常(前頭部突出、顔面中央部の低形成、眼間開離、小顎など)、多発関節障害(脱臼、拘縮)、
へら状の指を特徴とする。特に股、膝、肘などの大関節の多発脱臼と、ほぼ必発する治療抵抗性の内反足が問題となる。
脊柱変形は高頻度で認め、特に頸椎の後弯に伴う頸髄症を呈することもある。
口蓋裂、気管・喉頭軟化症、難聴、など骨格外合併症を伴うことも多い。
病因
フィラミンB (FLNB) 遺伝子(3p14.3)の変異が原因であるが、発症機序は明らかではない。常染色体優性遺伝の遺伝様式をとる場合が多い。
疫学
本邦における患者数は不明であるが、日本整形外科学会骨系統疾患全国登録によれば、1990-2015年の26年間に35例が登録されている。
また、発生頻度は10万人に一人とする報告がある。
臨床症状
多発性先天性関節脱臼:罹患関節は大関節、特に股、膝、肘関節に多い。膝関節脱臼による反張膝は特徴的である。
特異顔貌:典型的な特徴は前頭部突出、眼間解離、下顎の低形成である。鞍鼻を伴う平坦な顔は皿状顔貌(dish face)と表現される。
へら状指:指趾などの短管骨は管状を呈し特に末節骨では太く短い。いわゆるへら状指は3主徴の一つとされる。
足部変形:頻度は高い。拘縮が非常に強い内反足変形、あるいは関節弛緩性に由来する程度の強い外反踵足変形が同程度出現する。
脊椎変形:椎体間の関節弛緩性に由来する頚椎後弯、胸腰椎後側弯をしばしば認める。
骨・関節以外の症状:精神発達遅延は通常認めない。低身長、口唇裂、口蓋裂、水頭症、白内障、停留睾丸、混合性難聴、合指(趾)症などを伴う場合がある。気管・喉頭軟化症が合併する場合は新生児、幼児期での突然死に注意が必要である。
検査所見
X線所見
管状骨のundertubulationが特徴的である。特に、母指末節骨は分厚い。また、踵骨の二重骨化は特徴的である。
診断の際の留意点
特徴的な臨床所見(顔貌異常、大関節の多発脱臼、へら状指)とX線での管状骨のundertubulationが診断の決めてとなる。
足部変形(内反足や外反踵足)はほぼ必発する。また、踵骨の二重骨化は幼児期に認められる特徴的な所見である。
治療
根治的な治療法はない。全身状態が安定している条件下で、整形外科的諸問題に対する対症治療がなされる。
治療計画に際しては、①多発性の変形や脱臼に対しての治療優先順位、②治療開始時期、③具体的な治療方法、
すなわち保存的治療を選択するのか手術的治療か、またどのような術式を選択するか、という点に特に配慮が必要である。
頸椎後弯に対しては、頻度は高くないものの成長とともに起こりうる病態であり、
もし出現すれば不可逆的な頚髄損傷をきたす可能性があることから予防的手術が必要である。
胸腰椎後側弯についても頸椎同様注意深いフォローが必要である。上肢については有効な手段がないのが現状で
手術的介入をされることは少ない。下肢の脱臼や変形については、特に前述した治療開始時期とその優先順位が問題となる。
膝関節と足部については生後できるだけ早い時期からの保存的治療(ギプス矯正や装具療法)が必要である。
しかしながら多くの場合これら保存的治療に抵抗性であるため手術的介入が必要となる。
気管・喉頭軟化症を伴う場合には乳児期の呼吸障害に注意を要する。口蓋裂、白内障、難聴などに対する専門的な治療介入も必要である。
合併症
気管・喉頭軟化症、口蓋裂、口唇裂、白内障、水頭症、停留睾丸、混合性難聴など、骨格系以外の合併症をしばしば認める。
予後
個々の部位に対する治療は患者のADL向上のためには不可欠であるが、多数回を要するのみならず、必ずしも予後を保証できるわけではない。
この点について治療側と患者側が共通認識をもてるように、頻回かつきめ細かい説明が必要である。
成人期以降の注意点
成人期以降の長期予後についてのデータ集積はない。本症の整形外科的諸問題は治療に抵抗性であるため、小児期に適切な治療介入がなされたとしても、
成人期以降に脊柱変形、関節障害など残存することが多い。運動器機能障害により、加齢とともにADLが低下することが危惧される。
参考文献
Zhang D, Herring JA, Swaney SS, et al. Mutations responsible for Larsen syndrome cluster in the FLNB protein. J Med Genet 2006; 43: e24
日本整形外科学会作成の診断基準
小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。
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