じゃくねんせいぽりぽーしす若年性ポリポーシスJuvenile polyposis
小児慢性疾患分類
- 疾患群12
- 慢性消化器疾患
- 大分類2
- ポリポーシス
- 細分類10
- 若年性ポリポーシス
病気・治療解説
概要
全消化管に良性の過誤腫性ポリープである若年性ポリープが多発する常染色体優性遺伝性疾患である。約25%は家族歴のない弧発例である。生涯ポリープ数は5~200個程度であり、発生部位、時期により全消化管型、胃限局型、大腸限局型、新生児・乳児期発症型に分類される。
病因
不明である。一部の患者では、Transforming growth factor(TGF)-β経路による細胞増殖抑制のシグナル伝達系を介して、細胞の増殖やアポトーシスを制御する腫瘍抑制遺伝子である第18番染色体長腕に存在するSMAD4遺伝子と第10番染色体長腕に存在するBMPR1A遺伝子の変異が認められる。
疫学
有病率は10万人に1人、国内の患者数は約80~1200人と推計される。
臨床症状
消化管に多発するポリープによる腸重積、出血による腹痛・血便が認められる。大多数の症例が20歳までに発症し、若年時に腸重積を契機に診断されることが多い。蛋白漏出性胃腸症に伴う低蛋白血症、低栄養をきたすこともある。2歳未満に発症する新生児・乳児期発症型では、前述の症状に加えて下痢、成長障害を合併し、重篤な経過を示すことがある。
中枢神経系・心血管系・腸管奇形の合併に伴う症状、遺伝性毛細血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia、以下HHT)の合併に伴う吐下血、血便をきたす場合もある。
検査所見
消化管ポリープから慢性出血をきたすと便潜血陽性、血液検査で貧血の所見を認める。蛋白漏出性胃腸症を合併すると、低蛋白血症をきたす。
上部消化管内視鏡検査、大腸内視鏡検査、小腸内視鏡検査(小腸カプセル内視鏡検査またはバルーン小腸内視鏡検査)で多発性のポリープを認める。
切除されたポリープの病理組織所見は、診断の手引き「検査所見II」に示される組織学的な若年性ポリープの特徴を有する。
診断の際の留意点
家族性腺腫性ポリポージス、カウデン症候群、ポイツ・ジェガース症候群などの、消化管ポリポーシスをきたす他の疾患との鑑別に留意する。
治療
根治のための治療法はない。
症状の原因となっているポリープに対しては内視鏡的ポリープ切除術が、内視鏡的に対応が困難な多数のポリープには外科的切除が行なわれる。腸重積や癌の予防目的に5mm以上のポリープに対しては内視鏡治療が望ましい。ひとたびポリープの切除を行っても新たなポリープが次々に発生することがある。症例ごとにポリープの発育速度は異なっており、その発育速度に応じて定期的(おおむね6か月から数年ごと)に内視鏡検査を行い、繰り返し内視鏡的ポリープ切除術を行う。
合併症
腸重積、蛋白漏出性胃腸症、慢性消化管出血、成長障害は消化管ポリポーシスに伴う小児期に注意をすべき合併症である。消化管の悪性腫瘍の生涯発症リスクは高いとされるが、小児期の悪性腫瘍の合併は比較的稀である。
消化管外合併症として、ばち状指、多指(趾)症、巨頭症、脱毛症、口唇口蓋裂、先天性心疾患、重複腎盂尿管、(双頚)双角子宮、停留精巣、過剰歯、知的障害などの合併の報告がある。
SMAD4遺伝子の変異を有する症例の一部にHHT、血管系の異常、中枢神経・消化管・肺・肝臓の動静脈奇形を合併することもある。
予後
腸重積の診断・治療の遅れは、生命予後に関わることがある。頻回の腸重積の治療のため短腸症候群を合併する場合もある。
定期的な上部消化管内視鏡検査、大腸内視鏡検査、バルーン小腸内視鏡、小腸カプセル内視鏡によるポリープの診断、経過観察と治療によって、腸重積などの合併症を予防すれば予後は良好である。
消化管と膵臓の悪性腫瘍発症の高危険群とされ、定期的なサーベイランスが必要である。
成人期以降の注意点
消化管ポリポーシスに対する内視鏡検査と治療は、成人期以降も継続が必要である。
消化管と膵臓の悪性腫瘍発症の高危険群であり、定期的なサーベイランスが必要である。
参考文献
厚労省難治性疾患政策研究事業 「消化管良性多発腫瘍好発疾患の医療水準向上のための研究(H27-難治等(難)-一般-003)」 研究代表者 石川秀樹
日本消化器病学会編.大腸ポリープ診療ガイドライン2014. 南江堂,東京,pp146-7.
Jass JR, Williams CB, Bussey HJ, et al. Juvenile polyposis–a precancerous condition. Histopathology. 1988; 13: 619-30.
Achatz MI, Porter CC, Brugières L, et al. Cancer Screening Recommendations and Clinical Management of Inherited Gastrointestinal Cancer Syndromes in Childhood. Clin Cancer Res. 2017 ;23:e107-e114.
小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。
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