ずがいないはいさいぼうしゅよう頭蓋内胚細胞腫瘍Intracranial germ cell tumour
小児慢性疾患分類
- 疾患群1
- 悪性新生物群
- 大分類6
- 中枢神経系腫瘍
- 細分類90
- 頭蓋内胚細胞腫瘍
病気・治療解説
概要
頭蓋内胚細胞腫瘍(germ cell tumors, GCT)は、松果体部や鞍上部に発症する様々な腫瘍から構成される多様な病変である。頭蓋内胚細胞腫瘍は2007年のWHOの病理学的分類では次の6型に分類される。
① ジャーミノーマ(胚腫)(germinoma)
② 胎児性癌(embryonal carcinoma)
③ 卵黄嚢腫瘍(yolk sac tumor)
④ 絨毛癌(choriocarcinoma)
⑤ 奇形腫(teratoma)(成熟奇形腫mature teratoma/未成熟奇形腫immature teratoma/悪性転化を伴う奇形腫teratoma with malignant transforamtion)
⑥ 混合性胚細胞腫瘍(mixed germ cell tumors)
混合性腫瘍は、腫瘍内に上記の ① 〜 ⑤ の腫瘍が2種類以上混在して認められるものである。
頭蓋外にも病理組織の類似した腫瘍を認めるが、発症部位の違いから頭蓋外の腫瘍とは異なった診断・治療方法がとられ、予後も異なる。
疫学
頭蓋内胚細胞腫瘍は欧米では、小児脳・脊髄腫瘍の4%以下と頻度の少ない腫瘍であるのに対し、日本を含むアジア諸国では頻度が高く、日本では全脳腫瘍の2.7%、小児脳腫瘍の15.3%(第2位)を占めている。
組織型別には、ジャーミノーマが50〜60%と最も多く、混合性胚細胞腫瘍が30%前後、純型の胎児性腫瘍、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌は合わせて10%前後である。診断時平均年齢は18 歳前後、男性に圧倒的に多い。
部位別には、松果体部発生が最も多く(60〜70%)、神経下垂体部(トルコ鞍上部)(20〜30%)、大脳基底核(5〜10%)の順となり、まれに脳室、視床、大脳半球、小脳、延髄、脊髄にも認めることもある。
松果体と鞍上部のように診断時に複数の病変を認めることもある。
症状
腫瘍の発症部位により異なった症状が出現する。
下垂体機能低下を認めることが多く、鞍上部腫瘍では60〜90%の患者で尿崩症を発症する。
松果体部腫瘍では、画像上鞍上部の病変を認めなくても尿崩症を発症していることがある。
鞍上部腫瘍では視機能低下、成長ホルモン欠乏、思春期早発を認めることがある。
松果体部腫瘍では、中脳水道を閉塞し、水頭症をきたし、頭痛・嘔吐、意識障害などの症状を呈する。
更に、蓋板を圧迫してパリノーParinaud症候群(輻輳反射麻痺による偽Argyll-Robertson瞳孔または対光反射の減退を伴う両側性上方注視麻痺)を呈する。
基底核腫瘍では、大脳高次機能の低下、錐体路障害による片麻痺、知的機能の障害などを生じる。
頭蓋内圧亢進症状、視機能障害を初発症状とする場合には診断までの時間が短いが、食思不振、精神症状、行動異常、夜尿症などの非特異的症状で発症する場合、診断まで時間がかかることが多い。
診断
症状や診察所見から腫瘍の存在が疑われ、CT、MRI検査によって腫瘍性病変が描出され、診断の契機となる。
ジャーミノーマは均一な病変として描出されるのに対し、混合性腫瘍は、不均一な病変とし描出されることが多い。
しかし、画像所見のみからの鑑別診断は困難である。
鞍上部の小病変では、ランゲルハンス細胞組織球症、サルコイドーシスとの鑑別が必要であり、より大きな病変では、低悪性度神経膠腫との鑑別が必要である。
松果体部腫瘍は殆どが胚細胞腫瘍であるが、低悪性度神経膠腫、テント上未分化原始外胚葉腫瘍(sPNET)、松果体細胞腫との鑑別が必要である。
混合性胚細胞腫瘍は、播種の可能性が高いため、治療前には、脳および脊髄のMRI検査によりその有無を検索する。
腫瘍マーカーが診断に有用な場合がある。
卵黄嚢腫瘍を含む場合にはAFPが高値、絨毛癌を含む場合には、β-HCGが高値を示し、その値によってこれらの腫瘍の多寡を推測することができる。
奇形腫を含む場合、AFPが軽度上昇することがある。
奇形腫や、胎児性癌、ジャーミノーマなど他を含む場合には、腫瘍マーカーのみでは構成を推測できない。
確定診断は、手術あるいは生検による腫瘍の病理組織診断によって行なわれる。
腫瘍採取の方法によっては、腫瘍全体を反映しないために、正しい診断ができない場合もあり注意を要する。
治療
組織型により予後が異なり、異なった治療方法がとられる。欧米では、ジャーミノーマと、それ以外の腫瘍(non-germinomatous germ cell tumor:NGGCT)に分けて治療を行なうものが多いが、我が国では組織型や腫瘍マーカー所見から、3つのリスク群に分けて治療が行なわれる場合が多い。
診断方法からリスク分類、治療方法ま国内でも国際的にも議論が多く、また治療方法にも大きな差がある。
国際的共同研究のために、国際的なコンセンサスを形成しようとする動きがある。
1)手術: 治療方針の確定のためには、組織診断の確定が必要である。
初回手術では、ジャーミノーマでは、後療法の効果から摘出の必要はないとされ、他の悪性胚細胞腫でも、初回手術での摘出の有用性は示されておらず、腫瘍の生検が目的とされる。
近年は、定位生検、神経内視鏡下生検が行なわれ、これらが困難な場合に開頭腫瘍生検が行なわれる場合が多い。
いずれの方法で腫瘍組織を得た場合でも、混合性胚細胞腫などでは、腫瘍検体が全体を反映しない場合があり、治療開始後に、治療に対する反応が、診断に適合したものかどうか注意し、診断を検討する必要がある。
2)ジャーミノーマ: 放射線に対する感受性が高く、化学療法に対する感受性も高い。
放射線単独治療によって高い生存率が達成されるが、その合併症の問題から、近年は照射線量を減量し、照射野を小さくする試みが行なわれている。
多くの腫瘍が化学療法によって完全寛解となるが、化学療法単独治療の臨床試験では、再発がいずれも50%〜60%と高いため、化学療法単独では不十分であると考えられている。
このため、放射線治療と化学療法を併用し、放射線治療を軽減する治療が主流となっている。
3)ジャーミノーマ以外の胚細胞腫瘍: 胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、あるいはこれらを含む悪性混合性胚細胞腫は予後不良であり、転移を起こしやすい。
全脳脊髄照射を含む放射線単独治療では、治療反応は良好であるが、多くは18ヶ月以内に再発し、生存率は20-45%であり不十分と考えられている。
一方、化学療法単独の臨床試験も再発が多く不十分である。
生存率の向上のために、化学療法・放射線治療併用治療が主流となっているが、放射線治療の照射野、線量、化学療法の内容については臨床試験によって大きく異なり、最適な治療方法が確立されたとはいえない。
予後
ジャーミノーマでは、全脳脊髄照射を含めた強力な放射線治療を行なうもののほうが生命予後は良いが、内分泌障害、認知機能障害などの障害が大きくなる。
放射線治療の軽減をはかる化学療法併用の治療では、10年無病生存率は80%を越え、10年全生存率は90%を越える。
ジャーミノーマ以外の胚細胞腫瘍では、10年無病生存率は50-60%であったが、近年の治療強化により向上している。治療後には、再発のほかにも、内分泌障害などの合併症、二次がんによる死亡もあり、長期的なフォローアップが必要である。
参考文献
1) 西川亮:ジャーミノーマ、別冊日本臨床 新領域別症候群No.28, 347-351, 2014.
2) 柳澤隆昭:混合性胚細胞腫瘍、別冊日本臨床 新領域別症候群No.28, 374-378, 2014.
小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。
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