いでんせいきゅうじょうせっけっきゅうしょう遺伝性球状赤血球症hereditary spherocytosis; HS
小児慢性疾患分類
- 疾患群9
- 血液疾患
- 大分類8
- 遺伝性溶血性貧血
- 細分類11
- 遺伝性球状赤血球症
病気・治療解説
概要
赤血球膜の遺伝的異常により赤血球が破壊され、貧血を来たす疾患である。赤血球の膜・酵素・ヘモグロビンの異常による3大遺伝性溶血性貧血の一つである。赤血球膜異常による遺伝性溶血性貧血には、その赤血球の形態から球状赤血球症・楕円赤血球症・口唇赤血球症などがある。
疫学
球状赤血球症は本邦で最も頻度の高い遺伝性溶血性貧血の一つで、その約70%を占める。5~10万人に1人の頻度である。常染色体優性遺伝形式をとるが常染色体劣性遺伝や孤発例も存在する。遺伝性楕円赤血球症は赤血球膜異常症の約10%程度を占め、基本的に常染色体優性遺伝形式をとり貧血は比較的軽症が多い。
原因
赤血球膜蛋白(α・βスペクトリン、Ankyrin、Band3,Protein4.2 など)をコードする遺伝子の異常による。このため赤血球の変形能が低下し、脾臓で破壊・貪食され血管外溶血を起こす。口唇赤血球症では、赤血球膜の1価陽イオン(Na/K)輸送異常により赤血球水分量が変化するため、末梢血塗抹標本で赤血球中央部に口唇状のスリットを認める。
症状
赤血球破壊による貧血・黄疸と脾腫が主症状であるが、小児期に重度の貧血・黄疸で診断される重症例や成人期まで診断されない軽症例など、症状の出現時期や程度に個人差が大きい。また、溶血によるビリルビン産生が長期間持続するため胆石症(ビリルビン結石)を合併しやすい。感染などを契機に溶血発作(hemolytic crisis)やヒトパルボウイルスB19感染などによる無形成発作(aplastic crisis)をおこすことがある。
治療
貧血が重症の場合に、脾臓摘出術が唯一の治療法である。脾臓摘出術と同時に胆嚢摘出術を施行することが多い。遺伝性口唇赤血球症では脾臓摘出後に血栓塞栓症の合併例が報告されており慎重な判断が必要である。乳幼児期に脾臓摘出術を施行した場合、肺炎球菌などの莢膜をもつ細菌による重篤な感染症を引き起こすリスクが高いため、学齢期までは手術を控えた方が安全とされる。術前に肺炎球菌やインフルエンザ菌B型のワクチン接種を行う。代償性赤血球造血が亢進している場合は、葉酸を投与することが望ましい。
予後
合併症が認められない場合は予後良好な疾患である。また、脾臓摘出後も一般的には予後良好である。
参考文献
1) Nathan & Oski’s Hematology of infancy and childhood 6th edition
2) 小児疾患診療のための病態生理(第4版)
3) 別冊日本臨床 血液症候群(第2版)2013
小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。
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