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かんきょだいけっかんしゅ(にゅうようじなんちせいかんけっかんしゅ)
肝巨大血管腫(乳幼児難治性肝血管腫)giant hepatic haemangiomas; critical infantile hepatic haemangioma

小児慢性疾患分類

疾患群12
慢性消化器疾患
大分類15
肝巨大血管腫
細分類42
肝巨大血管腫(乳幼児難治性肝血管腫)

病気・治療解説

概念

肝血管腫は小児でもっとも頻度の高い肝腫瘍で、近年の国際分類(International Society for the Study of Vascular Anomalies (ISSVA)分類)では、組織学的に血管内皮が腫瘍性に増殖した病変と、血管形成異常の二種類の疾患群に大別されると考えられている。多くの肝血管腫が無症状であるにも関わらず、新生児、乳幼児にみられる一部の巨大な、あるいは多発性の肝血管腫は、高拍出性心不全や凝固異常、腫瘍内出血によるショックなどの重篤な病態を呈し、治療抵抗性で死に至るものもある。このため近年、これらの低年齢児の難治性肝血管腫を無症状の小さな肝血管腫とは異なる独立した疾患群と考える概念が海外で提唱され、次第に支持を集めつつある。実際にはこのような重篤な経過をとる難治性肝血管腫の頻度は稀で、平成22年度より厚生労働省難治性疾患克服研究事業の研究班が組織され、日本小児外科学会の認定施設を対象にこれまでに何回かの調査が行われ、このような症例の臨床症状や我が国の治療実態が調べられた。これまでの調査結果では肝内に単発性では径60mm以上、あるいは多発性の血管腫のあるものがしばしば症状を呈しており、こうした画像所見に加えて呼吸循環障害、凝固障害などの症状のあるものを新生児・乳幼児の「難治性肝血管腫」と診断して、危急的な病態に注意するように警鐘がならされている。一般的な血管腫に対する治療としてステロイドなどの薬物療法、放射線照射、血管塞栓、外科手術などが行われるが、低年齢児の難治性肝血管腫の病態は危急的であり、治療は未確立である。

疫学

日本小児外科学会認定施設を対象とした上記の調査結果より、年間の発症は5~10例程度と推定される。本邦の調査では明らかな男女差はない。出生時体重、在胎週数ともに中央値は正常範囲内であった。多くは乳児期早期までに診断されるが、近年では出生前診断例も増えている。

病因

本症の病因は確定されてはいない。組織学的には血管内皮細胞の腫瘍性増殖、血管奇形のほか、その双方の因子をもった症例もみられている。

症状

本症の代表的な症状は、肝腫大、腹部膨満、呼吸障害、心不全、凝固障害(Kasabach-Merritt症候群)などで、30-40%の症例で見られる。巨大なものや多発性の肝血管腫は血管床増大による循環系負荷により高拍出性心不全を併発し、致死的経過をとる 。また、血管腫内の微小血管内における凝固因子、血小板の消費から凝固障害や血小板数減少を来す。血管腫による著明な肝腫大は横隔膜を圧迫してその運動を制限するほか、腹腔への静脈還流を阻害して、呼吸循環障害を呈する。血管腫はどの区域にもほぼ均等に分布していて、好発部位はない。また、皮膚血管腫を合併する症例もみられる。そのほか甲状腺機能低下症、発育障害、腎不全、貧血、肝機能障害、高ガラクトース血症や高アンモニア血症などの症状・徴候がみられることもある。頭蓋内出血や腹腔内出血による出血性ショックを呈する場合もあり、また、出生前の症例では胎児水腫から子宮内胎児死亡となることもある。本邦の調査による死亡例の検討では、治療に反応せずに血小板数が10万/mm3以下に低下するか、あるいはプロトロンビン時間が20秒以上に延長している症例は致死的な経過をとる可能性が高く、緊急に有効な治療を要するとされている。

治療

ステロイド療法、プロプラノロール療法、抗がん剤投与、血管腫塞栓療法、放射線照射、外科手術、肝移植などが行われる。最新の平成25年度の調査では、我が国では内科治療としては、ステロイド療法が61.5%で、インターフェロン療法が30.8%で、プロプラノロール療法15.4%で、また抗がん剤治療が3.8%で行われていた。さらに塞栓療法は23.1%、放射線照射は5.4%で、また肝切除、肝動脈結紮などの外科手術が26.9%で行われていた。加えて肝移植も2例で行われていた。
ステロイド療法は血管腫に対する第一選択とされるが、本邦の調査では約20%の症例でははっきりした効果は認められず、半数以上の症例ではステロイド療法のみでは病態のコントロールが付かずに他の追加治療を要していた。近年、β—ブロッカーのプロプラノロールが著効を示す症例があることが報告され、徐々に使用される頻度が増している。抗がん剤ではビンクリスチンや、アクチノマイシン、サイクロフォスファミドを組み合わせて使用して有効であったとする報告がみられる。これら薬物療法が有効な症例は、冒頭で述べたISSVA分類では血管内皮の腫瘍性増殖による病変であり、血管形成異常に対する効果は薄いと考えられている。血管形成異常に対しては塞栓療法や外科的治療が有効と考えられるが、現時点では超音波検査、造影CT検査などを組み合わせても肝の血管腫が腫瘍性病変か血管形成異常による病変かを臨床的に区別する事は容易ではない。この他、海外では心不全や凝固障害などの急性期症状に対して肝移植を行った症例も報告されるが、本邦では肝移植は慢性期の幼児に行われていた。
このように様々な治療が報告されているが、治療抵抗性の難治例に対する治療は確立されていない。

予後

平成22-23年度の本邦の調査では、生後1歳未満で治療を要した肝血管腫症例が過去5年間で19例集められ、そのうち3例(15.7%)が死亡していた。これらには子宮内胎児死亡となった症例は含まれず、それを含めると死亡率はさらに高い可能性がある。血管内皮増殖性病変では、乳幼児期を薬物療法などで乗り切ると症状が安定して投薬も不要になる症例もみられる一方、本邦の調査で見つかった1例は幼児期に肝機能障害が進行して肝移植を受けていた。

小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。

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