ふぃんらんどがたせんてんせいねふろーぜしょうこうぐんフィンランド型先天性ネフローゼ症候群Congenital nephrotic syndrome of the Finnish type; CNF
小児慢性疾患分類
- 疾患群2
- 慢性腎疾患
- 大分類1
- ネフローゼ症候群
- 細分類1
- フィンランド型先天性ネフローゼ症候群
病気・治療解説
概要
生後1年以内に発症するネフローゼ症候群は,生後3か月以内に発症する先天性ネフローゼ症候群(congenital nephrotic syndrome:CNS)とそれ以降に発症する乳児ネフローゼ症候群(infantile NS:INS)とに分類される.CNSを代表する疾患が、フィンランド型先天性ネフローゼ症候群 (congenital nephrotic syndrome of the Finnish type: CNF)である(1, 2)。
病因
CNFは常染色体劣性遺伝を呈し,1998年に責任遺伝子(NPHS1)が同定され,その遺伝子産物はネフリンと名づけられた(3)。現在までに日本を含む全世界で140以上のNPHS1変異が報告されているがフィンランドのCNS患者では90%以上の症例で2種類のNPHS1変異(Fin-major変異とFin-minor変異)が認められると報告されている(1)。一方,フィンランド人ではないCNS患者117人の遺伝子を解析した報告によればNPHS1異常は60.8%の患者に認められたのみで,14.9%の患者ではポドシン遺伝子(NPHS2)異常が,5.6%の患者ではWT1遺伝子(WT1/ラミニンβ2遺伝子(LAMB2),ホスホリパーゼCε-1遺伝子(PLCE1)の異常がそしてこれらの遺伝子異常が認められなかった症例が18.7%であったとされ、フィンランド人以外のCNS症例は遺伝学的に多様なことが示されている(4)。
臨床病理像
NPHS1 異常が原因となる CNF では、胎生期からはじまる高度の蛋白漏出に伴い、羊水中のαフェトプロテイン濃度の上昇がみられ、胎盤重量は出生体重の25%以上の巨大胎盤となる。80%以上の症例で生後1週間以内にネフローゼ症候群を呈し、高度な全身性浮腫、腹水、大泉門の開大などの身体所見のほか、筋力低下や中枢神経、心機能の軽度な異常を伴う場合が多い。
病理所見としては、糸球体における様々な程度の細胞増殖所見や尿細管腔の拡張や間質線維化像が認められる。電顕所見としては、足突起癒合、糸球体基底膜の部分的菲薄化がみられ、また、スリット膜構造の消失が特徴的である(5)。
NPHS2 異常では微小糸球体変化や巣状分節性糸球体硬化が,WT1,PLCE1異常,LAMB2 異常ではびまん性メサンギウム硬化(DMS)が認められる(6)。
診断
CNFを含む生後1年以内に発症するネフローゼ症候群には,表に示したように種々の疾患が含まれるため,診断に際しては, 家族歴, 臨床症状, 検査所見, 腎生検所見, そして遺伝子検索などにより総合的に判断する必要がある。CNFにみられる以下のような臨床・検査所見が診断のための補助となる。
・母体の血清・羊水中のαフェトプロテイン濃度の高値
・胎盤重量が出生体重の25%以上
・胎児期発症の高度タンパク尿
・血清アルブミン濃度:1.0g/dL未満
・タンパク尿:2.0g/dL以上(血清アルブミン濃度1.5g/dL以上に補正した場合)
・先天性ネフローゼ症候群を呈する他疾患を除外(表)
・生後6か月まで,腎機能正常
・家族歴あり
・NPHS1遺伝子の異常
表. 先天性・乳児ネフローゼ症候群の分類
鑑別診断上, ①頻度的には少ないものの, 微小変化型ネフローゼ症候群や巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)は新生児・乳児期にも発症すること,②Denys-Drash症候群(DDS)[腎症(びまん性メサンギウム硬化症:DMS),Wiinls腫瘍,男性仮性半陰陽を3徴とし、WT1異常により発症する],Pierson症候群 [腎症(DMS)と小瞳孔症などの眼科的異常を認め,LAMB2異常により発症する],そしてその他の奇形症候群の腎症状としても発症すること,③二次性ネフローゼ症候群の原因として,先天性梅毒,トキソプラズマやサイトメガロウイルス感染症などとの関連性があることなどに留意する。
治療・予後
保存的治療以外に有効な治療法がなかった時代のCNF患児の予後は極めて不良であったが,近年,CNF患児に対する積極的な治療として,片側または両側固有腎を摘出し,その後腹膜透析(PD)を経て腎移植を行う方法が試みられるようになり,生命予後の改善と身体発育障害ならびに精神運動発達遅延の改善が得られるようになった。
本稿ではフィンランドのHolmbergらの方法を中心に概説する(2, 7)
a. CNF患児に対する基本的な治療戦略
CNF患児に対する当初の治療目標は腎移植を成功させることである。
b.ネフローゼ期の治療・管理
両腎摘前のネフローゼ期では,高度タンパク尿に伴う種々の合併症に対する積極的な治療が必要であり,アルブミン製剤を用いた浮腫の管理,十分な栄養補給,ホルモン(特に甲状腺ホルモン)異常の是正,血栓症の予防,そして感染症に対する迅速な対応などが治療の中心となる(2, 7)。なお,抗菌薬や免疫グロブリン製剤の予防投与の有効性は乏しいとされている(7)。
c.両側固有腎摘出とその後の慢性腎不全期の治療・管理
Holmbergらの施設では,体重が約7kgになったら(平均年齢0.7)両腎摘を行い,PD療法に移行している。両腎摘の目的は高度タンパク尿漏出状態に伴う種々の合併症からの完全な解放であり,これにより低タンパク血症や過凝固状態をはじめ全身状態は劇的に改善したと報告されている(7)。
薬剤治療に関して,フィンランドのCNF患者の大部分でみられるNPHS1変異(Fin-majorやFin-minor)では,ネフリンの発現が全くみられず薬剤治療抵抗性であるが,ネフリンの発現異常をわずかしか呈さないNPHS1変異を有するCNF患者では,ACE阻害薬+インドメタシンが有効であったとされている(5)。PDに伴う種々のトラブル(腹膜炎など)の可能性を考慮すると,腎臓を1個でも温存できた場合のメリットは大きい。タンパク尿の重症度に応じて,治療法(両腎摘,片腎摘+薬剤,薬剤のみ)を選択する。また,ネフローゼ期のワクチンは,免疫グロブリンの尿中漏出が多く無効な場合が多いため,腎移植前の腎不全期に実施する(2, 7)。
d,腎移植
Holmbergらの施設では,体重が約9kgになった時点で腎移植が実施されている(6)。CNF患児への腎移植では,感染症による死亡と血栓症による移植腎機能喪失が問題になるため(8),高度タンパク尿に伴う低タンパク・低γグロブリン血症状態や過凝固状態から十分に脱した状態で腎移植を実施するのが望ましい。なお,CNFに対する腎移植では,ドナー腎に存在する正常なネフリンタンパクに対して腎移植後に形成された患者血漿中の抗ネフリン抗体が腎移植後タンパク尿を惹起する可能性が報告されている(9)。
参考文献
Jalanko H, Holmberg C. Congenital nephrotic syndrome.In Avner ED, et al. (Eds). Pediatric nephrology, 6thed, Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins, 601-619, 2009
服部元史:先天性ネフローゼ症候群.日本臨鉢62:1861-1866, 2004
Kestilä M, Lenkkeri U, Männikkö M, et al. Positionally cloned gene for a novel glomerular protein–nephrin–is mutated in congenital nephrotic syndrome. Mol Cell 1:575-582, 1998
Machuca E, Benoit G, Nevo F, et al. Genotype-phenotype correlations in non-Finnish congenital nephrotic syndrome. J Am Soc Nephrol 21:1209-1217, 2010
Patrakka J, Kestilä M, Wartiovaara J, et al. Congenital nephrotic syndrome (NPHS1): features resulting from different mutations in Finnish patients. Kidney Int 58:972-980, 2000
Benoit G, Machuca E, Antignac C. Hereditary nephrotic syndrome: a systematic approach for genetic testing and a review of associated podocyte gene mutations. Pediatr Nephrol 25:1621-1632, 2010
Holmberg C, Antikainen M, Rönnholm K, et al. Management of congenital nephrotic syndrome of the Finnish type. Pediatr Nephrol 9:87-93, 1995
Kim MS, Stablein D, Harmon WE. Renal transplantation in children with congenital nephrotic syndrome: a report of the North American Pediatric Renal Transplant Cooperative Study (NAPRTCS). Pediatr Transplant 2:305-308, 1998
Patrakka J, Ruotsalainen V, Reponen P, et al. Recurrence of nephrotic syndrome in kidney grafts of patients with congenital nephrotic syndrome of the Finnish type: role of nephrin. Transplantation 73:394-403, 2002
小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。
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