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そのた、せんてんせいこうじょうせんきのうていかしょう
17から19までに掲げるもののほか、先天性甲状腺機能低下症congenital-hypothyroidism

小児慢性疾患分類

疾患群5
内分泌疾患
大分類11
甲状腺機能低下症
細分類20
17から19までに掲げるもののほか、先天性甲状腺機能 低下症

病気・治療解説

概念・定義

先天性甲状腺機能低下症(congenital hypothyroidism:以下、CH)は、胎児期または周産期に生じた何らかの病因により、甲状腺ホルモン産生不足または作用不全をきたす疾患の総称である。甲状腺機能低下症の持続期間により永続性先天性甲状腺機能低下症と一過性先天性甲状腺機能低下症に大別され、さらに障害部位が甲状腺自体である原発性(あるいは甲状腺性)甲状腺機能低下症、下垂体や視床下部が障害される中枢性甲状腺機能低下症、甲状腺ホルモン作用不全による末梢性甲状腺機能低下症に区分される。
「16から18に掲げるもののほかの、先天性甲状腺機能低下症」としては、永続性原発性先天性甲状腺機能低下症(permanent primary congenital hypothyroidism:以下、原発性CH)の中で、下記の病因があげられる。
1.甲状腺形成異常のうち低形成、片葉欠損
2.甲状腺ホルモン合成障害
3.機能喪失型TSH受容体遺伝子変異
甲状腺は正常であれば、前頸部の甲状軟骨のやや下方に位置し、気管を前面から囲むように存在する。正常位置の場合「正所性」甲状腺と称し、位置異常を来したものを「異所性」甲状腺と称する。異所性甲状腺や、甲状腺の欠損等は甲状腺の発生過程の障害によると考えられており、甲状腺形成異常(thyroid dysgenesis)と総称される。
甲状腺ホルモン合成障害は、甲状腺ホルモンの重要な構成要素であるヨード(ヨウ素)が、血液中から甲状腺濾胞細胞中に取り込まれ、甲状腺ホルモンとなって血液中に放出されるまでの一連の過程の障害により甲状腺ホルモン合成・分泌が低下することで発症する。大部分は関係する酵素などの遺伝子変異により生じ、主に劣性遺伝形式をとる。

病因

甲状腺形成異常は散発性であり、その原因自体は不明であるが、人種による発生頻度差があること、異所性甲状腺の男女比が1 : 3 と女子に多いこと、合併奇形が一般集団より高頻度であることなどから、遺伝学的背景が示唆されてきている。
甲状腺ホルモン合成障害は、血液中からの甲状腺濾胞細胞中へのヨード輸送を担う蛋白をコードするNIS遺伝子異常によるヨード濃縮障害、そのヨードが有機化されサイログロブリンのチロシン残基上に保存されるまでに関わるサイログロブリン遺伝子異常症、DUOX2・TPOそれぞれの遺伝子異常によるヨード有機化障害、MITとDITに合成され、ヨード化チロシン残基の縮合によりT4とT3が産生される際のヨードチロシン縮合障害、血液中に放出され、残されたMIT・DITが脱ヨード化されヨードが再利用される過程のヨードチロシン脱ヨード化障害、という各段階での障害により甲状腺機能低下症が発症する。
機能喪失型TSH受容体遺伝子変異は、TSH受容体遺伝子変異により甲状腺細胞のTSH刺激に対する反応性が低下し、甲状腺ホルモン合成が低下することにより、甲状腺機能低下症をきたす。

疫学

先天性甲状腺機能低下症 (congenital hypothyroidism:以下、CH)は、胎児期または周産期に生じた何らかの病因により、甲状腺ホルモン産生不足または作用不全をきたす疾患の総称である。甲状腺機能低下症の持続期間により永続性CHと一過性CHに大別され、さらに障害部位が甲状腺自体である原発性(あるいは甲状腺性)甲状腺機能低下症、下垂体や視床下部が障害される中枢性甲状腺機能低下症、甲状腺ホルモン作用不全による末梢性甲状腺機能低下症に区分される。
甲状腺形成異常は永続性原発性先天性甲状腺機能低下症 (permanent primary congenital hypothyroidism:以下、原発性CH)の病因の 80 ~ 90 %を占め、なかでも異所性甲状腺が全体の約 60 %、欠損性が約 20 %、低形成が 5 %以下、片葉性(主に左葉欠損)が 1%以下と報告されてきた。
新生児マススクリーニング開始以前に臨床症状で発見された原発性CHは、その頻度は1:6,000~7,000とされていたが、スクリーニング開始後は著しく頻度が上昇している。とくに近年、原発性CH発見のための甲状腺刺激ホルモン(TSH)のカットオフ値が低く設定されることで、軽症甲状腺機能低下症(とくに潜在性甲状腺機能低下症)の発見頻度が高まり、発見症例中の甲状腺ホルモン合成障害の比率上昇により、甲状腺形成異常の占める比率は相対的に低下してきている。
イタリアからの報告ではTSHのカットオフ値を12 mIU/Lに設定した場合には、原発性CHの頻度は1:1,816、20 mIU/Lに設定すると1:2,654の頻度となるとしている(3)。そのフォロー結果は正所性が増加し約20%が一過性であったが、約40%が治療中止によりTSH 5.0-9.9 mIU/Lの上昇を示す軽度な甲状腺機能低下症であったとしている。アルゼンチンからの報告でもTSHのカットオフ値を15mIU/Lより10mIU/Lに引き下げた場合に原発性CHの頻度は1:2,904から1:2,412まで増加したとしている(4)。

臨床症状

甲状腺ホルモン合成障害は、出生時に著しい甲状腺機能低下症がある場合、比較的柔らかく腫大した甲状腺腫を認めることがある以外は、甲状腺形成異常による甲状腺機能低下症の非特異的症状とは違いはない。
非特異的症状:黄疸が長引いた (3週以上)、便秘 (2日以上でない)、臍ヘルニア、体重増加不良、皮膚乾燥、不活発・傾眠、巨舌、嗄声、手足冷感、浮腫、小泉門開大。
新生児マススクリーニングで発見されずにCHが無治療で経過した場合、乳幼児期にみられる重要な症状は、成長障害及び不可逆性の神経発達障害である。
これら以外の原発性甲状腺機能低下症の主な臨床症状は、成人例と同様以下のものが上げられる:無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声等いずれかの症状。

診断

1979年以降、日本で生まれた全ての新生児は、日齢 4~6 に採取された乾燥ろ紙血液(以下、ろ紙血)中のTSHを測定し、後述する基準値に従って、直ちに精密検査を要するか、2回目の採血(再採血)を要するかを判定されている(これが新生児マススクリーニングである)。要精密検査と判定された場合は、採血医療機関を通して保護者に連絡を取り、適切な精密検査医療機関への受診を勧奨する。要再採血と判定された場合は、採血医療機関に対し再採血を依頼する。再採血検体でもTSH異常値を示す場合は、改めて適切な精密検査医療機関への受診を勧奨する。
ろ紙血中TSHは東京都および神奈川県では血清値表示されているが、それ以外の道府県・指定都市では全血値表示となっている(全血値×1.6=血清値)。
直ちに精密検査とするTSH値は、半数以上が 30 mIU/L (全血値)であるが、最も低い千葉県の 15 mIU/L から開始当初のままの 50 mIU/L まで様々である。要再採血とするTSHカットオフ値も、過半数は 10 mIU/L が過半数であるが、 7.5 ~ 12 mIU/L と幅がある。
マススクリーニングで陽性となった後の、精密検査は次のように行われる。
身長、体重、頭囲の記録、CHのチェックリスト(遷延性黄疸、便秘、臍ヘルニア、体重増加不良、皮膚乾燥、不活発、巨舌、嗄声、四肢冷感、浮腫、小泉門開大、甲状腺腫)を含んだ児の丁寧な診察をまず行う。
血清TSH/FT4値を測定して甲状腺機能低下症の有無を確認する。血清サイログロブリン値の測定は、病型診断の補助として役立つ。正TSH―低FT4血症の場合は、中枢性CHが疑われるが、必要に応じてTBG測定によりTBG欠損症(低下症)の鑑別診断も行う。
採血時には代謝異常検査用濾紙にも必ず採取し、スクリーニング検査機関に送付する。大腿骨遠位端骨核による骨成熟度判定、甲状腺超音波検査も可能なら行う。
問診も重要であり、とくに母親の既往歴として子宮卵管造影・妊娠中のヨード過剰摂取、児の周産期異常(ヨード含有造影剤、消毒剤使用の有無)、甲状腺疾患の家族歴(親類、同胞のスクリーニング結果を含み)の聴取は必須である。母親の甲状腺腫の有無にも注意し、必要があれば甲状腺機能検査(抗甲状腺抗体も含み)も行う。
子宮卵管造影の既往があった場合は、検査の時期、造影剤の種類(油性か水性か)・量などを記録し、ヨード濃度測定用の検体を凍結保存(児の血清、尿、母親の血清、尿、母乳)する。
欧米ではマススクリーニング直後に甲状腺シンチグラフィーの施行による病型診断を行い、病型によって治療量を変えることで治療成績の向上が期待される、という報告が最近みられているが、わが国では新生児、乳児期早期の放射性同位体を用いての病型診断は勧められず、超音波甲状腺検査を用いて、欠損性、異所性疑い例と甲状腺腫性との早期鑑別が行われている。
初診時に中等度以上の甲状腺機能低下症を認めた場合は、一過性甲状腺機能低下症との鑑別に時間をかけず、甲状腺ホルモン薬補充療法が優先される。軽度の甲状腺機能低下症が持続する場合も治療が開始されることが多いので、一定の時期に、甲状腺機能低下症が持続しているかの「再評価」が必要となる。
再評価の時期は、脳の成熟が一定の完成をみる3歳以後が諸外国のガイドラインを含め推奨されている。二つの方法があり、LT4を4分の1量のLT3(等力価)に 3 ~4 週間置き換え、7 ~ 10 日間の休薬期間をおいた後(T3 withdrawal test)にTRH試験を行うか、LT4を4週間毎に漸減して、血清TSH値の再上昇を確認する。
小学校入学前などの適切な時期に、①児の甲状腺機能低下症が終生の治療を要するか、②遺伝子検査を必要とするかどうか、の判断のために病型診断を行う。
病型診断はT3 withdrawal testに引き続き、放射性ヨード摂取率、甲状腺シンチグラフィー、ヨード唾液血清比、パークロレイト放出試験、TRH試験を行う。
甲状腺形成異常のうち低形成、片葉欠損の診断は、新生児、乳児期であれば甲状腺超音波検査、一般に3歳以降に行われる病型診断の場合は、99 mテムネシウムまたは放射性ヨード(123I) 甲状腺シンチグラムにより行う。
甲状腺ホルモン合成障害の診断は、新生児、乳児期であれば甲状腺超音波検査、一般に3歳以降に行われる病型診断の場合は、99 mテムネシウムまたは放射性ヨード(123I) 甲状腺シンチグラムにより、甲状腺の形成異常がなく、正所性であって正常大または腫大していることにより診断する。
機能喪失型TSH受容体遺伝子変異は、TSH受容体遺伝子変異の検出により診断する。
再評価、病型診断時に甲状腺機能低下症と判定されず、治療が中止された場合でも、年に1回程度の甲状腺機能検査を継続し、思春期以降の成長停止後に最終的な判断を行う。

治療

「16から18に掲げるもののほかの、先天性甲状腺機能低下症」は、サブクリニカルCHから重度の甲状腺機能低下症を示す場合まで様々なので、治療開始基準としては、日本小児内分泌学会の新しいガイドライン(先天性甲状腺機能低下症の診断・治療のガイドライン(2013年改訂版))で次のように提案されている。
すなわち、CHのチェックリスト ≧2点、または大腿骨遠位端骨核出現の遅れ、または超音波検査にて甲状腺が同定できない場合、腫大甲状腺を認めた場合は、血清検査結果を待たずに、直ちに治療を開始すること推奨する。またこれらの所見のない場合やこれらの検査を行っていない場合でも、血清検査の結果で血清TSH ≧30 mIU/Lまたは、血清 TSH 15~30 mIU/L かつ FT4 1.5 ng/dL 未満の場合あるいは各精査機関でFT4が正常児に比較し、低下していると判断した時には、治療することを推奨する。
臨床症状がなくかつ血清FT4は正常範囲であるが、血清TSHが正常値より高く(5 mIU/L以上)しかし15 mIU/L未満の場合の方針については、エビデンスレベルの高い研究はない。生後3~4週でTSHが正常化しない場合には治療を行うことが多い (エキスパートオピニオン)。しかし、無治療で甲状腺機能検査を行い、慎重に経過する観察することもある。この場合サブクリニカルCH、一過性高TSH血症、あるいは永続的CHとの鑑別が困難である。慎重に経過観察し、生後 6ヶ月未満でTSH ≧10 mIU/L、生後12ヶ月でTSH≧5mIU/Lの場合には治療を行うことを考慮する。但し生後 12ヶ月でTSH ≧5mIU/Lの場合治療を行うかについては世界的にも結論は得られていない。
CHの治療はレボチロキシンナトリウム(L-T4、商品名:チラーヂンS錠、レボチロキシンNa錠、チラーヂンS散)の内服により行われる。半減期の短いリオチロニンナトリウム(T3)やT3とT4を含み力価の一定しない乾燥甲状腺(商品名がチラーヂン末であり紛らわしい)は用いない。未だ乾燥甲状腺が使われている事例も報告されており、注意が必要である。
L-T4は投与量の約70%が主に空腸で吸収され、血中の半減期は約1週間とされており、1日1回朝食30分前服用が成人での標準的用法である。小児でもこれに準じて1日1回服用させることとし、L-T4 10μg/kg/日(分1)で治療を開始する。その後は、TSHは 0.5 ~ 2mIU/L 程度、FT4は基準範囲の上半分に入るように、LT-4量を調節する。初期投与量の後の適正維持量であるが年齢が進むとともに、体重あたりでは漸減とな る。乳児期では 5~10 μg/kg/日、1~5歳で 5~7 μg/kg/日、5~12歳で 4 ~6 μg/kg/日が目安である
治療開始後2 ~4 週目に甲状腺機能を再検し、その後は、生後6か月まで 1~2か月毎、3歳まで3~4か月毎、思春期が終わるまでは 6~ 12か月毎の検査が勧められている。

予後

予後については、異所性甲状腺や欠損性と言った、病型毎の解析はなされていないので、CH全般の治療成績を示す。
2002年の小児慢性特定疾患治療研究事業の登録例2,341例(男1,030例、女1,311)のデータを用いた、CH患児の身体発育の解析では、大部分の身長が平均±2SDに収まっていた。また男女ともほぼ標準体重に相当していた。
1994~1999年度の全国追跡調査では年長児の知能検査は行われておらず、1~5歳各年齢でのDQ/IQが集計され104.1~107.3と良好であった。
若年成人期の生活の質(QOL)については、高校卒業年齢以降のCH51例(男15例、女36例;21.1±2.7歳)の生活の質(Quolity of Life;QOL)に関する調査結果では、健常対象と有意差が無かった。

参考文献

原田正平:II.各論、第1章 新生児内分泌学、D.新生児マススクリーニング、2.先天性甲状腺機能低下症.小児内分泌学(診断と治療社、東京)p.160-163、2009
原田正平:II.各論、第8章 C.先天性甲状腺機能低下症.小児内分泌学(診断と治療社、東京)p.394-400、2009
Corbetta C, Weber G, Cortinovis F, Calebiro D, Passoni A, Vigone MC, Beck-Peccoz P, 908 Chiumello G, Persani L. A 7-year experience with low blood TSH cutoff levels for 909 neonatal screening reveals an unsuspected frequency of congenital hypothyroidism (CH). 910 Clin Endocrinol (Oxf) 2009;71:739-45. 911
Chiesa A, Prieto L, Papendieck P, Gilligan G, Niremberg M, Gruneiro-Papendieck L 912 Characterization of thyroid disorders found by primary congenital hypothyroidism (CH) 913 neonatal screening: Something is changing ? Revi Invets Clin 61 (Suppl 1): 30

小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。

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