せんてんせいもんみゃくけっそんしょう先天性門脈欠損症Congenital Absence of Portal Vein
小児慢性疾患分類
- 疾患群12
- 慢性消化器疾患
- 大分類10
- 肝血行異常症
- 細分類32
- 先天性門脈欠損症
病気・治療解説
概要
先天性門脈欠損症(congenital absence of the portal vein, CAPV)は、先天性の門脈体循環短絡症であり門脈低形成または欠損により門脈血流が肝を十分灌流しないものを指す。1793年にAbernethyが最初の症例を報告している。1990年代から急速に症例が蓄積され、CAPVと同じ血行動態と症状を示す、多彩な先天性門脈体循環短絡症(congenital portosystemic shunt, CPSS)が知られるようになった。短絡血管が肝外にあるか肝内にあるかで大別される。
肝外にある場合は先天性肝外門脈体循環短絡症(congenital extrahepatic portosystemic shunt, CEPS)であり、CAPVないしAbernethy malformationを含む。Morganは1994年にCAPVをType I、Type IIと分類した1。Howardは1997年にCEPSをType 1 (End-to-side)、Type 2 (Side-to-side) と分類しており2、両者は概ね一致する。わが国のKobayashiの分類3も用いられる。肝内にある場合は肝内門脈体循環短絡症であり1990年にParkが記述した分類4を踏襲し、Type 1からType 4に分類される。静脈管開存はType 5 とされている。その後の臨床研究により実用的な分類が可能になり、病型と術式および予後を関連づけたBlancの分類5、閉塞試験時の門脈圧による分類6, 7がされ、診断と治療が結びつくようになって来た。
疫学
元は肝腫瘍例・肝性脳症例などから見いだされるごく稀な病態と考えられていたが、先天代謝異常症のマススクリーニングでガラクトース高値を契機に見いだされる症例が増加し、無症状のCPSSが多数あることがわかってきた。わが国では出生30,000例に1例程度のCPSSがあるとみられる8。
病因
門脈は胎生の4-10週にかけて形成される。腸管周囲の左および右卵黄嚢静脈が発達と退縮を経て成体の走行に至る間に何らかの異常が起きることによってCEPSに至る。CEPSは犬や猫の一部の種で遺伝性ないし高頻度に観察される異常であり、遺伝的背景が想定されるが詳細はいまだ不明である。
肝内門脈体循環短絡の病因としては大小の肝血管腫がしばしば見いだされる。乳児では皮膚の血管腫が退縮した後も肝内で血管腫の遺残が短絡を形成することがある。
症状
CPSSの多くは無症状であり、かつては年余を経て肝性脳症や肝腫瘍から診断される例が多かった。316例のCPSSを蒐集した報告9によると、合併する後天的・機能的な異常として神経症状ないし肝性脳症(35%)、肝腫瘍(26%)、肝肺症候群ないし肺高血圧症(18%)を記載した症例報告が多い。高インスリン性の低血糖、頭痛なども知られている。肝腫瘍は限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia)、結節性再生性過形成(nodular regenerative hyperplasia)が主だが肝芽腫、肝細胞がんも報告されている。脳膿瘍はときに致命的な経過をたどる。
合併する先天的・形態的な異常としては先天性心疾患(22%)や染色体の変化(9%)があり、Down症候群、Turner症候群などの報告が目立つ。
中枢神経症状の発症年齢は乳児から80歳代まで幅が広く、また軽微な症状からの診断は困難である。不明の発達遅滞・多動傾向・食後の意識消失などがシャント閉鎖術後に改善してはじめて症状の一つであったと判明する場合がある。
肝肺症候群では労作時呼吸困難、バチ状指、チアノーゼ、座位で悪化する低酸素血症(platypnea, orthodexia)などがみられる。CAPVでは門脈血流不足のために肝は小さく触れにくいことが多い。
血液検査では、肝硬変ではなく機能する肝細胞があるにも関わらずアンモニア高値・総胆汁酸高値・プロトロンビン時間の延長・軽度の黄疸・軽度のトランスアミナーゼ高値などがみられる。
診断
新生児を対象としたマススクリーニングでガラクトース高値が見いだされた場合は、本症を鑑別に含める。他の症状から本症を疑う場合も同様であるが、食後のアンモニア・総胆汁酸の上昇を観察するとともに腹部ドップラー超音波検査などで短絡血管を検索する。肝外では下大静脈(奇静脈)・左腎静脈・腸骨静脈への灌流例が多い。
短絡の程度を評価するには経直腸門脈シンチグラフィが有用である。肝肺症候群の評価には酸素飽和度でスクリーニングし、肺血流シンチグラフィを行う。
確定診断には血管造影または造影CT検査で短絡血管を証明する。
治療
無症状の症例は保存的に観察可能だが、無症状であるとの判定は容易でない。侵襲的治療のリスクと利益を考慮する必要がある。
有症状例はシャント閉鎖術を考慮する。外科的閉鎖と放射線学的な閉鎖がある。治療戦略はいまだ開発途上であり、一期的に閉鎖するか、二期に分けるかを、病型、閉塞試験時の門脈圧、腸管の浮腫・色調などで判断することが提案されている5-7。かつて閉鎖術によって肝内門脈が未発達である故に門脈圧亢進症をきたさないかという懸念がされたが、多くの例で門脈系が成長し門脈圧は正常に留まり、症状は改善に向かうと判明しつつある。神経症状の改善、肝腫瘍の縮小、肝肺症候群の消失などが報告されている。肝移植を要する例は多くなく、胆道閉鎖症や肝芽腫のような合併症にも影響される。
なお高ガラクトース血症では乳糖除去ミルクが使用されるが、本症で必須かどうかはいまだ明らかにされていない。
予後
End-to-side型で肺高血圧症、肝肺症候群、重篤な心疾患、胆道閉鎖症などの重篤な合併症を有する例に死亡例がある。無症状の例では予後は良い。
肝内型は乳児期に閉鎖する例が多い。
成人期以降の注意点
肝肺症候群、肺高血圧症、肝性脳症の緩慢な増悪に注意を払い、定期的観察を要する。増悪時には外科的介入を考慮する。稀に血液透析などを機に肝性脳症(猪瀬型)をみる例があり注意を要する。
参考文献
1.Morgan, G. and R. Superina, Congenital absence of the portal vein: two cases and a proposed classification system for portasystemic vascular anomalies. J Pediatr Surg, 1994. 29(9): p.1239-41.
2.Howard, E.R. and M. Davenport, Congenital extrahepatic portocaval shunts–the Abernethy malformation. J Pediatr Surg, 1997. 32(3): p.494-7.
3.Kobayashi, N., et al., Clinical classification of congenital extrahepatic portosystemic shunts. Hepatol Res, 2010. 40(6): p.585-93.
4.Park, J.H., et al., Intrahepatic portosystemic venous shunt. AJR Am J Roentgenol, 1990. 155(3): p.527-8.
5.Blanc, T., et al., Congenital portosystemic shunts in children: a new anatomical classification correlated with surgical strategy. Ann Surg, 2014. 260(1): p.188-98.
6.Franchi-Abella, S., et al., Complications of congenital portosystemic shunts in children: therapeutic options and outcomes. J Pediatr Gastroenterol Nutr, 2010. 51(3): p.322-30.
7.Kanazawa, H., et al., The classification based on intrahepatic portal system for congenital portosystemic shunts. J Pediatr Surg, 2015. 50(4): p.688-695.
8.Ono, H., et al., Clinical features and outcome of eight infants with intrahepatic porto-venous shunts detected in neonatal screening for galactosaemia. Acta Paediatr, 1998. 87(6): p.631-4.
9.Sokollik, C., et al., Congenital portosystemic shunt: characterization of a multisystem disease. J Pediatr Gastroenterol Nutr, 2013. 56(6): p.675-81.
小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。
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