まんせいじんうじんえん慢性腎盂腎炎Chronic pyelonephritis
小児慢性疾患分類
- 疾患群2
- 慢性腎疾患
- 大分類4
- 慢性腎盂腎炎
- 細分類24
- 慢性腎盂腎炎
病気・治療解説
概要
慢性腎孟腎炎(chronic pyelonephritis)は慢性に経過する尿路感染症である。従来,慢性腎盂腎炎と称せられていた病態の殆どが逆流性腎症(reflux nephropathy)であることが明らかになっている(1)。
病因・病態
尿路感染症(urinary tract infection)は尿路上皮へ細菌が付着し,更に増殖した細菌が尿路粘膜下層へ侵入し,炎症を引き起こした状態である。臨床的に尿路感染症は,感染部位により上部尿路感染症(主に腎孟腎炎)と下部尿路感染症(主に膀胱炎)に,病勢により急性と慢性に,基礎疾患の有無により複雑性感染症 (complicated urinary tract infection)と単純性感染症(uncomplicated urinary tract infection)に分類される。ほとんどの症例は,尿路の形態学的または機能的な異常を有する複雑性尿路感染症であり,慢性複雑性腎孟腎炎と考えることができる。しかし,「慢性腎孟腎炎」は古典的に,病理学的または形態学的に萎縮し,瘢痕のある腎という疾患概念が存在する(2, 3)。
腎への細胞浸潤,尿細管間質の線維化,尿細管の拡張や萎縮などの間質性腎炎の所見を呈し,画像診断上,腎孟・腎杯の変形を伴い,腎機能障害を引き起こすことがある。感染に起因するものと,起因しないものが含まれ,小児では膀胱尿管逆流症に伴う逆流性腎症で観察されることが多い。成人では主に尿路の慢性閉塞に伴う閉塞性腎孟腎炎で観察される。
臨床症状
慢性複雑性腎孟腎炎では,細菌尿と膿尿は尿路感染症では必発であるが,一般的な慢性腎孟腎炎の症状は急性腎孟腎炎と比較し軽微で,緩徐に経過する。腰痛や微熱のみを訴える症例や,細菌尿と膿尿を認めるものの自覚症状のない症例も多い。しかし,時に腰痛や38℃を超える発熱などの急性腎孟腎炎の症状や,排尿時痛,頻尿などの急性膀胱炎症状をみることがあり,急性増悪という。特に,尿路結石などが原因で,上部尿路の閉塞が急激に生じた場合,尿の産生は減少しないことより,腎孟内圧は急激に上昇する。尿中の細菌が多量に腎実質内に侵入すると,腎実質内に膿瘍を形成する。また,更に血液中に侵入すると菌血症,敗血症を合併する。敗血症性ショックに至ることもまれではない。また,腎孟内圧の上昇により,腎孟または尿管の組織が裂け,尿が後腹膜腔に漏出することもある(自然腎孟外溢流)。感染尿が漏出することから,後腹膜膿瘍,腎周囲膿傷を合併することもある。
診断
腎盂腎炎の診断に準じる(41膀胱尿管逆流参照)
【画像検査所見】
静脈性腎盂造影では腎は正常大から萎縮し,辺縁は不整である場合が多い。また病変部の腎杯が鈍化し,やや拡張する。腎実質が薄くなるため腎杯から腎の辺縁までの距離が短縮する。病変部分の占める割合が比較的大きい場合には,正常部分が代償性肥大により腫瘤状に認められることもある(pseudotumor)。
超音波検査では腎辺縁の不整,部分的な腎実質の菲薄化以外の所見は乏しいが,腎杯の拡張が著しい場合には,容易に確認できる。
CT検査では,腎の病変部に限局した実質の菲薄化を認め,造影不良領域となる。腎杯の拡張が強い場合には造影剤注入後の排泄相で病変部に相当する部分の腎盂内に造影剤が排泄され拡張の確認ができる。
MRI検査では、CTと同様に病変部に限局した実質の菲薄化を認め,造影後は低信号領域となる。
治療・予後
慢性腎孟腎炎の治療法の基本は抗菌薬投与であるが,抗菌薬治療の有用性の判定は難しい。特に腎瘢痕のあるような症例では,抗菌薬投与による腎機能の改善は期待し難い。
小児の膀胱尿管逆流症の症例における予防的抗菌薬治療は,むしろ耐性菌を誘発する可能性があることが指摘されている(4)。成人においても,細菌尿と膿尿を認めるものの自覚症状のない症例や,症状の軽微な症例に対し積極的な治療は推奨していない。複雑性腎孟腎炎は多くの細菌が原因となり,耐性菌の占める割合が他の尿路感染症と比較して高いため,安易に経験的な治療を行うべきではない。症状の軽い場合には,起炎菌の同定および薬剤感受性試験を行い,抗菌薬を選択すべきである(5)。しかし,慢性腎孟腎炎の急性増悪の場合には,早急な診断とともに,早期の抗菌薬治療が求められる。特に,上部尿路に閉塞をきたす腎孟腎炎では注意を要する(6, 7)。
水腎症が存在する尿路感染症で,高熱をきたす場合には,常に菌血症,敗血症の可能性を考慮して,尿培養薬剤感受性試験とともに,血液培養(好気培養嫌気培養の2セット)を行う。抗菌薬投与は主にグラム陰性桿菌を対象とした広域で抗菌力の強いカルバペネム系,βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系,第3,第4世代セファロスポリン系抗菌薬などの注射剤にて治療を開始する。特に敗血症を合併する症例では,カルバペネム系抗菌薬を選択する。薬剤感受性検査の結果が出たら,感受性のある抗菌薬にde-escalation(広域スペクトラムをもつ抗菌薬から,感受性のある狭域スペクトラムの抗菌薬に変更すること)する。解熱したら,内服薬に変更し,合計14日間の投与が推奨される。上部尿路が閉塞した症例では,抗菌薬投与のみでは症状の改善をみないこともまれではない。水腎症を合併した症例では,尿管カテーテル法,尿管ステント留置,腎痩造設など上部尿路のドレナージを併用する。
参考文献
1) 森 吉臣:慢性腎孟腎炎.別冊医学のあゆみ腎疾患,p299-300, 医歯薬出版,1997
2) Becker GJ. Reflux nephropathy. Aust NZ J Med 15:668-676, 1985
3) 頼岡徳在ほか:問質性腎炎・慢性腎孟腎炎.臨床と研究76:1512-1515, 1999
4) Jakobsson B, Berg U, Svensson L. Renal scarring after acute pyelonephritis. Arch Dis Child 70:111-115, 1994
5) Sundquist M, Kahlmeter G: Conplicated and healthcare associated urinary tract infections: etiology and antimicrobial resistance. In:Urological Infection, Edition 2010 (ed by Naber KG, et al), p82-91, European Association of Urology, Stockholm, 2010
6) Heyns CF: Urinary tract infections in obstruction of the urinary tract. In:Urological Infection, Edition 2010 (ed by Naber KG, et al), p452-480, European Association of Urology, Stockholm, 2010
7) Zanetti G, Trinchieri A: Urinary tract infections in patients with urolithiasis. In:Urological Infection, Edition 2010 (ed by Naber KG, et al), p278-287, European Association of Urology, Stockholm, 2010
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