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じこめんえきせいたないぶんぴつせんしょうこうぐんにがた
自己免疫性多内分泌腺症候群 2型Autoimmune polyendocrinopathy type 2

小児慢性疾患分類

疾患群5
内分泌疾患
大分類16
自己免疫性多内分泌腺症候群
細分類30
自己免疫性多内分泌腺症候群 2型

病気・治療解説

概要

多腺性自己免疫症候群は,自己免疫性多腺性内分泌症候群とも呼ばれ,自己免疫疾患に起因した内分泌腺を含む複数組織の機能障害の特徴的な組合せで定義される症候群である。広義の多腺性自己免疫症候群2型は,副腎皮質機能低下症(Addison病),自己免疫性甲状腺疾患(Basedow病,橋本病),1型糖尿病,性腺機能低下症,重症筋無力症,セリアック病のうち2種類以上を合併した場合に定義される。また,2型をさらに三つに細分する狭義の分類も存在する。狭義の分類では,副腎皮質機能低下症に自己免疫性甲状腺疾患や1型糖尿病などの自己免疫性内分泌腺疾患を合併した場合に2型,自己免疫性甲状腺疾患に副腎皮質機能低下症以外の内分泌腺疾患を合併した場合に3型,1~3型に該当しない複数の内分泌腺疾患を有する場合に4型と定義される.症候群名からは内分泌腺疾患に限定される印象を受けるが,多腺性自己免疫症候群は白斑,禿頭,紫膜炎,悪性貧血など多くの非内分泌腺疾患を合併しうる。本ガイドラインでは混同を避けるため,統一して狭義の分類を使用することとする.

病因・病態

多腺性自己免疫症候群2~4型の発症機序は完全には解明されていない。単一遺伝子疾患である1型と異なり,2~4型は複数の遺伝因や環境因子が関与する多因子疾患と考えられている。病態には多くの段階が介在し,感染症など環境因子による抗原提示細胞の励起,HLAハプロタイプやCTLA4遺伝子の多型により制御されるT細胞の応答,標的組織へのリンパ球浸潤と自己抗体産生の順で起こると推測される。HLAハプロタイプと個々の疾患との関連性は多様で,副腎皮質機能低下症や1型糖尿病では強く,自己免疫性甲状腺疾患では弱い。2型の副腎皮質機能低下症では,HLA-DR3ハプロタイプが疾患感受性遺伝因子として報告されている。また,自己免疫獲得が内分泌腺機能異常へ結びつくためには組織破壊の程度に依存し,免疫反応の強度と範囲,標的臓器の再生能および、アポトーシスなど喪失機構に対する耐性などの要因が関与する

疫学

2型は副腎皮質機能低下症とほかの内分泌腺異常組合せで定義される。有病率は1.4~4.5/1O万人と想定されていて,女性に多く,20~30歳代での発症が主である。小児期では思春期女児に多いと推定される

臨床症状

副腎皮質機能低下症患者の2/3は甲状腺機能低下症を合併しSchmidt症候群とよばれる。同様に,1/2は1型糖尿病を合併する。副腎皮質機能低下症,甲状腺機能低下症,1型糖尿病の三疾患合併例はCarpenter症候群とよばれる。1型糖尿病や甲状腺機能亢進症は副腎皮質機能低下症発症前に,甲状腺機能低下症は発症後に顕性化する傾向がある。3型は小児領域で最も頻度の高い多腺性自己免疫症候群と考えられている自己免疫性甲状腺疾患に副腎皮質機能低下症を除くほかの自己免疫疾患が存在する場合と定義される。成人を含めた全体では萎縮性胃炎・悪性貧血が最も頻度の高い合併症であるが,小児期ではまれである

診断と検査

診断は内分泌腺機能検査と組織特異的自己免疫検査に基づく。各内分泌腺に特異的な機能検査については他のガイドラインを参照する。組織特異的自己免疫検査では,病態の主因と考えられている自己反応性T細胞を評価する検査は一般化されていないため,自己抗体測定に限定される。自己抗体は潜在する自己免疫の存在,将来の発症のリスクを表すが,発症率・発症までの期間が疾患ごとにさまざまである。血中甲状腺自己抗体が何年も陽性であるにもかかわらず甲状腺疾患を発症しない症例は多いが,副腎皮質機能低下症や1型糖尿病では特定の自己抗体の存在が発症と密接に関連し,抗体量が多いほど発症率も高まる。近年,組織特異的自己抗体が認識する自己抗原の多くが同定され,遺伝子組換えにより精製された抗原を用いた自己抗体測定法が開発されている。組織特異的自己抗体の一部は特定の組織に対する自己免疫の存在を評価する感度特異度の高い指標として有用である。たとえば,抗21水酸化酵素抗体副腎皮質機能低下症と関連する自己抗体で,2型患者の91%で陽性となる。抗副腎皮質抗体陽性の小児では,34.6%/年の割合で副腎皮質機能低下症を発症し,11歳時にはほぼ全例で顕性化する。ただし我が国では抗21水酸化酵素抗体や抗副腎皮質抗体の測定が健康保険適用外検査であり,臨床利用には制約がある

治療

本症候群に対して確立した根本的な治療は現時点では存在しない。したがって個々の疾患ごとに個別に対応する必要がある。内分泌腺疾患では低下した各ホルモンの補充療法を個々に行う。甲状腺機能低下症と副腎機能低下症を合併した場合,副腎不全誘発を防ぐため副腎皮質ホルモを甲状腺ホルモンに先駆けて補充する必要がある。1型糖尿病患者でインスリン必要量が急速に低下した場合,副腎皮質機能低下症ないしは甲状腺機能低下症の合併の可能性を疑う。以上のように,疾患が単独で存在する場合と異なり,疾患自体および治療による相互干渉について配慮する必要がある

予後

多腺性自己免疫症候群2~4型に関して,予後をまとめた多数例の検討はない。自己免疫性疾患をもつ症例の約25%がほかの自己免疫性疾患を合併するリスクを有する。このため単独の自己免疫疾患であっても,多腺性自己免疫症候群の可能性を常に考慮すべきである。多腺性自己免疫症候群患者およびその両親と子ども,自己免疫性副腎皮質機能低下症患者,1型糖尿病患者では,合併率の高い疾患の機能評価および可能なら組織特異的自己抗体を測定し,機能障害の早期発見を目指すことが推奨される。自己免疫性副腎皮質機能低下症患者の2/3が甲状腺機能低下症を,1/2が1型糖尿病を合併する。このため,甲状腺機能や耐糖能について定期的なスクリーニングを行うことは重要と考えられる。一方,甲状腺機能低下症患者の1%および1型糖尿病患者の1.5%で抗21水酸化酵素抗体が陽性となる。よって,甲状腺機能低下症および1型糖尿病単独の症例では,副腎皮質機能の定期スクリーニングは必須ではない。また,自己免疫性甲状腺疾患の多くが孤発性であるが,1型糖尿病患者の20~25%は甲状腺ペルオキシダーゼ抗体陽性で,1型糖尿病で甲状腺ペルオキシダーゼ抗体陽生の患者の80%が15年以上の経過で甲状腺機能低下症を発症すると報告されている。したがって,すべての1型糖尿病患者では甲状腺機能を年1回評価すべきである

文献

(1) Neufeld M,et al. : Polyglandular autoimmune disease. In : Pinchera A, Doniach D, Fenzi GF, Baschieri L (eds),Symposium on Autoimmune Aspects of Endocrine Disorders. Academic Press, New York, 357-365, 1980
(2) Betterle C,et al. : Autoimmune polyglandular syndrome Type 2: the tip of an iceberg?Clin Exp Immunol 137 : 225-233, 2004
(3) Betterle C,et al. : Type 2 polyglandular autoimmune disease (Schmidt’s syndrome).J Pediatr Endocrinol Metab 9 : 113-123, 1996
(4) Betterle C,et al. : Autoimmune adrenal insufficiency and autoimmune polyendocrine syndromes: autoantibodies, autoantigens, and their applicability in diagnosis and disease prediction.Endocr Rev 23 : 327-364, 2002
(5) Eisenbarth GS,et al. : Autoimmune polyendocrine syndromes.N Engl J Med 350 : 2068-2079, 2004
(6) Michels AW, et al. : Autoimmune polyendocrine syndrome type 1 (APS-1) as a model for understanding autoimmune polyendocrine syndrome type 2 (APS-2).J Intern Med 265 : 530-540, 2009
(7) 石井智弘:B.多腺性内分泌疾患,2.多腺性自己免疫症候群2型(分担),小児内分泌学,日本小児内分泌学会編,PP.536-539,診断と治療社,東京,2009

小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。

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