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じこめんえきせいちょうしょう (あいぺっくすしょうこうぐんをふくむ。)
自己免疫性腸症(IPEX症候群を含む。)autoimmune enteropathy (incl. IPEX syndrome)

小児慢性疾患分類

疾患群12
慢性消化器疾患
大分類4
炎症性腸疾患(自己免疫性腸症を含む。)
細分類17
自己免疫性腸症(IPEX症候群を含む。)

病気・治療解説

概要

自己免疫性腸症は自己免疫機序によって腸管が障害され.難治性下痢症を来す疾患である.Unsworthらは以下の4項目を満たすものを自己免疫性腸症と定義した.

1. 食餌療法・完全静脈栄養で改善しない慢性難治性下痢症

2. 十二指腸・小腸生検で絨毛萎縮,粘膜固有層への単核細胞・形質細胞を中心とした細胞浸潤を認める

3. 正常腸管を用いた免疫組織学的方法で血清中に抗腸管上皮細胞抗体が検出される.ただし既に同定されている自己抗原(AIE-75, villin)に対する自己抗体が陽性.

4. 明らかな免疫不全症がない

しかしその後,自己免疫性腸症の主要な基礎疾患である“多腺性内分泌不全症、腸疾患を伴う伴性劣性免疫調節異常(immunedysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, X-linked;IPEX)症候群”の疾患概念が確立され責任遺伝子が同定されるにいたり,さらにこれが原発性免疫不全症に分類されたことから,上記項目の1-3を満たすものを自己免疫性腸症と定義することが合理的と考えられる.
IPEX症候群はFOXP3遺伝子の変異によって生じ,自己免疫性腸症を主要症候とする遺伝性疾患であり,1型糖尿病,自己免疫性甲状腺炎,自己免疫性溶血性貧血など多彩な自己免疫疾患を来す.

疫学

IPEX症候群は,その名の通りX連鎖遺伝形式を取る疾患であり,これまでに国内で8家系報告されている.IPEX症候群に合併しない小児自己免疫性腸症単独例の国内報告は現時点で1例のみである.

病因

IPEX症候群は制御性T細胞の分化に必須の転写因子FOXP3の遺伝子変異によって生じる.そのため本疾患においては胸腺由来ないし誘導性の制御性T細胞の欠失をきたし,末梢性免疫寛容が破綻するため多彩な自己免疫疾患やアレルギーを生じると考えられている.CD25欠損症や原因不明でIPEX様の症状を呈するものをIPEX様症候群としているが,国内の報告例は現時点で1例のみである.自己免疫性腸症単独例やIPEX症候群における抗腸管上皮細胞抗体がそれ自体どのような病因的意義を持つかについては不明である.

症状

IPEX症候群における下痢(自己免疫性腸症)は通常乳児期に発症し,分泌性で容易に電解質異常を来し,蛋白漏出を伴うことがある.それ以前に新生児先天代謝異常マス・スクリーニングで甲状腺機能低下症の診断を受けたり,新生児糖尿病で発症することもある.血球系異常としては自己免疫性溶血性貧血・血小板減少症・好中球減少症,腎疾患として間質性腎炎・ネフローゼ・糸球体腎炎などが知られる.自己免疫性肝炎・胆管炎,重症筋無力症,全身性血管炎合併の報告もある.皮膚疾患として湿疹がしばしば見られる他,類天疱瘡様,乾癬様皮疹,禿瘡を合併することもある.

検査

一般検査では特徴的なものはないが,IgE高値,好酸球増多を伴うことがある.腸管上皮細胞に対する自己抗体は診断的意義をもち,正常腸管組織と患者血清を用いた間接蛍光抗体法もしくは酵素抗体法で検出するのが標準的方法である.IPEX症候群の主要自己抗原として自己免疫性腸症関連75 kDa抗原(AIE-75)およびVillinが同定されており,リコンビナント抗原を用いた免疫ブロット法でこれらに対する自己抗体が検出されれば免疫組織学的手法による自己抗体検出の代用と出来る.その他,合併症に応じて,抗甲状腺抗体,抗GAD抗体,クームス抗体,抗血小板抗体,抗好中球抗体,抗アセチルコリン受容体抗体などが検出される.
十二指腸・空腸生検では,著明な絨毛萎縮,粘膜固有層への単核細胞・形質細胞を中心とした細胞浸潤を認める.
FOXP3遺伝子変異が証明されればIPEX症候群の診断が確定する.

治療

中心静脈栄養などによる水・電解質および栄養管理を要することが多い.ステロイド薬と免疫抑制薬(シクロスポリンA,タクロリムス)などの有効性が報告されているが,IPEX症候群の唯一の根治的治療法は造血幹細胞移植である.合併症により,インスリン療法,甲状腺ホルモン補充療法などを要する.FOXP3遺伝子変異のない自己免疫性腸症は成人になってから発症するものもあり,免疫抑制療法が中心となる.

予後

IPEX症候群においては,乳児期に難治性下痢を発症して無治療では多くの場合早期に死亡する.強い免疫抑制療法の後に造血幹細胞移植を要することが多いが,時に免疫抑制療法のみで長期間生存する症例も存在する.IPEX症候群以外の自己免疫性腸症は世界的にもまれであり,予後についても不明である.

小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。

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