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病気・治療解説

概要

エプスタイン病は、生まれつきの心臓病(先天性心疾患)で、最初にこの病気を報告した人の名前をとって、エプスタイン病とよばれています。心臓は、全身に血液を送り出すポンプです。心臓には4つの異なる弁があります。それぞれ、血液の逆流を防ぐ働きをしていますが、そのうちで、右心房と右心室の間にある弁を三尖弁といいますが、この弁の働きが生まれつき悪く、三尖弁逆流を生じている病気が、エプスタイン病です。症状もいろいろで、生まれたときにすでに発症している場合や、成人まで殆ど症状が無かったり、大きな治療をすることも無く、70歳くらいまで生存が可能だったりすることもあります。多くの方は、小児期を比較的無症状で経過し、成人後、経年的に不整脈、心不全などで発症します。合併する上室性頻拍(副伝導路のことも多い)に対して治療が必要になることがあります。ただ軽症の方を除くと、多くは、心臓手術を行うことになります。ただ、新生児期を除くと手術成績は良く、手術後も長く生きていくことが可能です。多くの方は妊娠出産も可能です。

罹患数

全先天性心疾患の0.5-0.7%程度と比較的まれな疾患であるとされています。

疫学

エプスタイン病は生まれつきの先天的な病気で、明らかな原因はわかっていません。先天性心疾患の多くは、多因子遺伝といって、環境、遺伝などの多くの要素の相互作用で生じるとされています。そう病、そう状態の治療薬である炭酸リチウム製剤を妊娠早期に服用しているとエプスタイン病の子どもができることがあるとされています。

遺伝

ご家族に同じ病気が認められる場合がありますが、ご家族の中に一人だけということが多く、遺伝は心配しすぎる必要はありません。ただ、他の先天性心疾患でも同様ですが、多因子遺伝に従いますので、エプスタイン病の母親からは、約4-5%程度に、先天性心疾患の子どもが生まれます。また、エプスタイン病の父親では2%程度です。一般的に生まれてくる赤ちゃんの1%は先天性心疾患を持って生まれますので、やや頻度が高いと考えられます。

症状

症状は非常に多彩です。胎児期に胎児超音波検査で診断される場合もあります。新生児期は、チアノーゼ(酸素の濃度が低く啼泣時に唇が紫色になったりします),呼吸の苦しい様子などで気付かれます。胎児期や新生児早期に発症した場合の 生命予後 はよくありません。乳児期に症状が出現する場合は、心不全を起こして,哺乳不良や体重増加不良などを伴うことが多く、また、無症状で心雑音で気付かれることも少なくありません。乳児期以降に発症する場合は、軽度のチアノーゼ、運動能力の低下を認めるのみのこともありますが、無症状の場合もすくなくありません。学童期は、学校検診などで心雑音で気付かれるか、不整脈を伴うことの多い副伝導路(WPW:Wollfe-Parkinson-White)症候群が心電図検査で見つかるか、です。成人になるにつれ、不整脈、動悸、運動時の息切れ、疲れやすいなどの症状が認められるようになります。運動時にチアノーゼを認める場合もあります。突然死も稀ですが、症状の一つで、不整脈、血栓形成によると考えられています。妊娠時は、不整脈、血栓に注意が必要です。
・注意すべき症状
チアノーゼ
無症状でも進行性の心拡大(胸部レントゲン検査で指摘されます)
右室機能の悪化(息切れ、歩行時の動悸などを伴います。
頻拍を伴う不整脈
浮腫(下肢を中心として全身)
・入院する場合の症状
頻拍をともなう不整脈で、自然に良くならない場合
高度の心不全で、浮腫、息切れ、動悸などが強い場合
心臓外科手術を行う場合
心臓カテーテル検査あるいは カテーテル治療 を行う場合
奇異性血栓(下肢からの血液の塊が、心臓を経由して頭の血管に詰まって、いわゆる脳卒中を起こした場合

治療法

内科的な治療法と外科的な治療法があります。不整脈や心不全などに対して内科治療を行いますが、基本的には、生まれつきの三尖弁の形態異常ですので、心臓外科治療が最終的な治療法となります。

・薬物療法,内科治療
新生児期に発症した場合の多くは、外科的な治療の対象となります。
新生児期を問題なく通過できた場合は、乳児期以降—小児期は症状に乏しく、無治療であることが多くなります。この場合は、外来での定期的な経過観察を続けます。成人後は、不整脈を伴うことも多くなります。抗不整脈薬を用いたり、カテーテル不整脈治療(カテーテルアブレーション)を行ったりします。また、心不全で、息切れ、動悸やむくみを伴う場合には、利尿薬、強心薬の投与を行ないます。血管拡張薬を用いることもあります。 労作時 の易疲労感や息切れが改善せず、心不全が明らかな場合や心不全が悪化している場合は、手術治療を行います。また、 血栓症 あるいは不整脈の一つである 心房細動 の合併では、 抗凝固療法 を考慮します。抗凝固薬は,ワーファリンだけではなく,新しく登場しているNOAC(New Oral anticoagulants)といわれる抗凝固薬を用いる場合もあります。

・カテーテルアブレーション
不整脈である上室性頻拍(心房細動或いは粗動を含む)は薬物療法を行いますが、もし、WPW症候群の合併で、副伝導路が存在する場合は、カテーテルアブレーションが有効です。心不全がない時は、カテーテルアブレーションが第一選択治療となります。近々外科的修復術をおこなう場合には、手術時間を短くするために、アブレーションを手術前
に行うことがあります。

・妊娠出産
チアノーゼ、不整脈や心不全を認めない場合、妊娠は比較的安全です。しかし、チアノーゼを認める場合は、流死産、低出生体重児が多くなります。専門医のコンサルトを受けた後に、妊娠出産をすすめることが望ましく、状態によっては、心臓手術後の妊娠することが良い場合もあります。

・心臓外科手術治療
右心室容積が非常に小さい場合は、右心室をバイパスする上大静脈肺動脈 吻合 術(Glenn手術)が行われる場合もあります。また、心房あるいは心臓の外に人工導管を使って静脈の血液を流すTCPC手術(total cavopulmonary connection)を選択する場合もあります。しかし大部分の手術は、弁形成術か弁置換術です。弁形成術にはいくつかの方法があります。大きな三尖弁の前尖を利用する方法(Carpentier法やDanielson法)、最近行われることが多い弁形成術であるConn手術。そして、弁形成術が困難な場合は、弁置換術(生体弁あるいは人工弁置換)を行います。WPWで副伝導路がある場合や心房細動が合併する場合は、術中冷凍アブレーションを行います。心房の壁の欠損口である心房中隔欠損、卵円孔を合併するときは閉鎖術も行います。

・手術の種類
三尖弁形成術(Danielson法、Carpentier法、cone手術
三尖弁置換術(三尖弁形成術が困難な場合)
total cavo-pulmonary connection、両方向Glenn手術
心房間交通の閉鎖(心房中隔欠損、卵円孔)
不整脈手術:副伝導路、心房粗動に対する冷凍凝固,心房細動に対するmaze手術

適応

ほとんど症状の無い方や階段を3階くらいまで休まずに上れる方は、手術をせず、内科で経過観察をします。チアノーゼがつよくなった場合、 右心不全 が悪化して、息切れや動悸、むくみなどが強くなった場合、薬物治療やアブレーション不成功の不整脈のある場合、あるいは、継続的に心拡大を認める場合などは、手術を考えます。

・手術適応
経年的に進行するチアノーゼ
心不全の悪化
胸部レントゲン検査での継続的な心胸郭比の増大(心胸郭比65%以上)
内科治療の困難な反復性の上室性頻拍

経過

胎児のうちに,すでに心臓が大きくて診断されている場合や新生児期にすでに発症している場合は、手術的に治療しますが、手術後死亡することが少なくありません。乳児から小児期にはじめて診断される場合は、無症状で成人となる場合も少なくありません。また、健康診断などで思春期から成人期にはじめて診断される場合の 予後 はよく、40才を過ぎて生存することは少なくなくありません。手術せずに70才や80才台まで生存することもあります。
一方、手術後の経過ですが、新生児期の手術の場合は、現在でも手術死亡率は高いです。小児期以降の手術成績は向上していて,手術死亡は、わずかです。また、成人期手術では、手術死亡は殆ど無く、手術後80%以上は長期間の生存をえられています。

患者さんに知って欲しいこと

軽症で心拡大が軽度で不整脈も無い場合は、殆どすべての運動に参加できます。中等度で、階段を上がると少し息切れがある程度の場合は、中等度の運動は可能で、日常生活は、旅行なども含めて制限はありません。ただ、自分のペースを守って、息切れなどの症状が出る前に休むことが必要です。いずれにせよ競争は避けるのが原則です。重度の場合は、早期の手術が必要です。抜歯や細菌感染時の際の抗生物質の投与は、脳 膿瘍 、感染性心内膜炎予防のために重要です。食事・栄養の面では高血圧は三尖弁閉鎖不全を悪化させるので、早期の治療が必要です。また、浮腫を伴うことも少なくないので、塩分を取り過ぎないように注意が必要です。

※難病情報センターhttp://www.nanbyou.or.jpより、許可をいただき掲載しております。