エピゲノム編集によりプラダー・ウィリー症候群の遺伝子の働きを回復させることに成功
慶應義塾大学と東京医科大学は10月29日、遺伝性疾患であるプラダー・ウィリー症候群(Prader-Willi syndrome, PWS)の患者由来iPS細胞を用い、改変型のCRISPR/Cas9システムを応用したエピゲノム編集によって、失われていた遺伝子の働きを回復させることに成功したと発表しました。
プラダー・ウィリー症候群(指定難病193、PWS)は、染色体15番の特定領域にある父方由来遺伝子の働きが失われることで発症し、筋力低下や発達遅滞、そして強い食欲や肥満などの多彩な症状を呈する疾患です。患者さんは母方染色体上にも同じ遺伝子を保持していますが、エピゲノム(DNAの化学修飾)によりその発現が抑制され、「サイレンス化」されている状態です。
今回、研究グループは、プラダー・ウィリー症候群(PWS)患者由来の人工多能性幹細胞を用いて、改変型のCRISPR/Cas9システムを応用したエピゲノム編集技術、具体的にはCRISPR/dCas9-Suntag-TET1システムを適用しました。この技術により、DNAの化学修飾であるメチル化を取り除くことで、母方の染色体上の遺伝子を再活性化させることに成功しています。
同研究では、遺伝子の再活性化が広範な「サイレンス化」の解除によるものであることを網羅的なエピゲノム解析で可視化しました。さらに、脳の深部にある「視床下部」の特徴を持つ立体構造である視床下部オルガノイドにおいても、回復させた遺伝子の働きが持続することを確認し、臨床応用に近い環境での有効性を示しました。また、この技術では標的外でのメチル化改変が確認されておらず、安全性の観点からも有望であるとされています。これにより、ヒト視床下部モデルにおいて、エピゲノム編集でPWS関連遺伝子を回復できることが世界で初めて示されました。
慶應義塾大学はプレスリリースにて、「本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)や日本学術振興会(JSPS)の支援のもと実施されました。今後、基礎研究と臨床応用の橋渡しを進め、希少疾患の患者さんに還元できる治療法の開発をめざします」と述べています。
なお、同研究の成果は、「Nature Communications」10月28日付で掲載されました。
