新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う呼吸器不全に対する治療有効性の示唆
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の平野俊夫理事長らが、これまでの研究の成果として新型コロナウイルス感染症に関する論文を発表しました。同論文では、新型コロナウイルス感染症に伴う致死的な急性呼吸器不全症候群は、免疫系が過剰に反応する状態である、サイトカインストームと呼ばれる状態が原因であると述べられています。さらに、こうした免疫系の異常と、インターロイキン6(IL-6)との関連も示唆されており、これらの免疫システムに作用する治療薬の有効性も述べれられています。
急性呼吸器不全症候群はIL-6の過剰反応により起こる
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)により、昨年末から世界的に流行している感染症(COVID-19)は、これまでに世界中で190万人の感染者を出し、死者は12万人にも上っています。特に急性呼吸器症候群と呼ばれる症状は致死率が高く、1日でも早い治療法の開発が待たれています。これまでの研究により、気管支や肺胞上皮細胞などに存在し、特定の反応が起こることをきっかけに炎症に関わるタンパク質を大量に発生させる「IL-6アンプ」と呼ばれる炎症誘導機構が明らかになっていました。また、IL-6アンプが活性化されると、炎症に関わるサイトカインが異常に増加する、サイトカインストームと呼ばれる状態が発生し急性呼吸器不全症候群になることも知られていました。
IL-6の阻害による治療の可能性
IL-6アンプと呼ばれる機構は、関節リウマチなどの自己免疫性疾患や、がんにも関わっていることが明らかになっています。COVID-19によって引き起こされる急性呼吸器不全症候群は、サイトカインストームによって引き起こされる致死的な臓器不全です。白血病などの治療に用いられるCAR-T療法の副作用でも同様に、サイトカインストームによる臓器不全が起こることが分かっており、こうした臓器不全はIL-6の働きを止めることで治療できます。これらのことをふまえて、COVID-19による急性呼吸器不全症候群も、IL-6の働きを阻害することで治療できる可能性があります。