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日本人の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんの発症年齢に関連する新規遺伝子「GPM6A」を同定、個別化治療へ向けた分子基盤を解明

慶應義塾大学は12月8日、愛知医科大学、名古屋大学との共同研究により、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の日本人患者さんを対象としたゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施し、発症年齢の若年化に関連する新規遺伝子多型を特定したと発表しました。

筋萎縮性側索硬化症(指定難病2、ALS)は、運動ニューロンが選択的に障害され、全身の筋萎縮と筋力低下を引き起こす進行性の神経変性疾患です。その発症原因は不明ですが、患者さんごとの臨床像、特に発症年齢(20~80歳代)の個人差の原因解明は、治療法開発の重要な手がかりと考えられています。欧米人や中国人では発症年齢に影響する遺伝子多型が報告されていましたが、日本人を対象とした包括的な探索はこれまで行われていませんでした。

今回、研究チームは、日本人の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さん2,015例を対象にGWASを実施。その結果、ADAM29-–GPM6A遺伝子間に存在する遺伝子多型(rs113161727)が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんの発症年齢の若年化と有意に関連していることが明らかになりました。この遺伝子多型(Aアレル保有)を持つ患者さんでは、平均して発症が4.40年早くなることが示されています。

画像はリリースより
画像はリリースより

日本人で最も頻度の高い家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子であるSOD1遺伝子に変異を有する患者群においては、この遺伝子多型の影響がより顕著であり、発症が平均で約10.2年早くなることも確認されました。

さらに、患者由来のiPS細胞から分化させた運動ニューロンを用いた機能解析では、この遺伝子多型を持つ患者さんで、中枢神経系に発現する膜貫通型糖タンパク質であるGPM6Aの発現が有意に上昇していることが確認されました。研究チームは、GPM6Aの発現上昇がグルタミン酸放出を介して神経毒性を高めることで、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症を早める可能性があることを示しました。

画像はリリースより

同研究は、日本人筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんの発症年齢を対象としたGWASとしては初めての成果であり、集団ごとに発症年齢を規定する遺伝的修飾因子の効果が異なりうることを示唆しています。この知見は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の多様性を踏まえた個別化治療に向けた分子基盤の一端を明らかにするものであり、将来的には遺伝的リスクに基づく発症予測や、早期介入など個別化医療への応用が期待されます。

なお、同研究の成果は、国際学術誌「Communications Biology」オンライン版に12月5日付で掲載されました。

出典
慶應義塾大学 プレスリリース

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