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トランスサイレチンアミロイドーシスの蓄積アミロイドの無毒化に成功

東京大学は8月7日、熊本大学、筑波大学、京都大学、和歌山県立医科大学、富山大学の研究グループと共同で、難病「トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTR)」に対し、新たな治療戦略を打ち出したと発表しました。

世界的に高齢化が進む中で、異常なタンパク質の蓄積によって発症する難病「アミロイドーシス」の診断例が急増しています。特にトランスサイレチンアミロイドーシス(ATTR)は、心臓や腎臓、末梢神経などに毒性のあるアミロイドが蓄積し、現状では臓器移植以外に根治療法がないため、多くの患者さんが苦しんでいます。これまでの治療法は病気の進行を遅らせるものが中心で、体内に蓄積したアミロイドの毒性を消す手段はありませんでした。

今回、研究グループは、光と空気中の酸素を使って、体内のアミロイドを選択的に無毒化できる小さな触媒分子を開発。この触媒は、アミロイド特有の構造に結合し、光を当てることで「光酸素化」という化学反応を起こします。これにより、アミロイドに含まれる特定のアミノ酸に酸素原子が導入され、毒性が低い状態へと変換されます。この手法は、正常なタンパク質を傷つけずにアミロイドだけを標的とするため、副作用のリスクが低いという特長があります。また、アミロイドの凝集性(かたまりやすさ)も大幅に低下させることが確認されました。

画像はリリースより
画像はリリースより

特に注目すべき点は、ヒトのATTRアミロイドを発症する線虫(C. elegans)を用いた実験で、世界で初めて動物個体内でアミロイドの無毒化と病態の改善を実証したことです。この線虫モデルは、本疾患の病態を忠実に再現できる唯一の実用的な動物モデルとされています。治療を受けた線虫では、運動機能が有意に回復する様子が観察され、「既に蓄積したアミロイドの毒性を直接除去することで病気を改善できる」という、アミロイド疾患治療の新たな可能性が示されました。

同研究は、従来の予防・緩和的なアプローチとは異なり、蓄積してしまった毒性アミロイドそのものを直接改変・無毒化する革新的なものです。これにより、これまで治療が困難だった進行期の患者さんや、診断・治療が遅れてしまった症例にも新たな治療選択肢がもたらされると期待されます。この「触媒医療」という新しい治療概念は、アルツハイマー病やパーキンソン病など、他のアミロイド関連疾患への応用も期待されています。

画像はリリースより

なお、同研究の成果は、「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。

出典
東京大学 プレスリリース

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