メトホルミン内包肺動脈標的型ナノカプセルが肺動脈性肺高血圧症モデル動物の病態を改善
北海道大学は4月30日、メトホルミン内包肺動脈標的型ナノカプセルを作製し、これが肺動脈性肺高血圧症のモデルラットにおいて、血行動態や肺小動脈病理像を改善させることを明らかにしたと発表しました。
肺動脈性肺高血圧症(指定難病86)は、肺の小さな動脈である肺小動脈が狭くなったり硬くなったりすることで血液の流れが悪くなり、心臓から肺へ血液を送る肺動脈の血圧が上昇する疾患です。プロスタサイクリン製剤、ホスホジエステラーゼ5阻害薬、エンドセリン受容体拮抗薬などの治療薬は存在するものの、予後は依然として十分ではなく、5年生存率は約60%とされています。
糖尿病治療薬として知られるメトホルミンは、肺動脈性肺高血圧症のモデル動物において右心室の機能や酸化ストレスを改善すると報告されていますが、乳酸アシドーシスや低血糖といった重篤な副作用のリスクがありました。そこで、研究グループは、少量のメトホルミンを肺動脈標的型のナノカプセルに封入し、肺動脈へ局所的に作用させることで、副作用を軽減しつつ肺動脈性肺高血圧症の病態改善を目指す新しい治療法の開発に取り組みました。
研究グループは、まず初めに、カチオン性脂質など複数の脂質を用いてメトホルミンを封入した肺動脈標的型ナノカプセルを作製しました。次に、健常者および肺動脈性肺高血圧症患者由来のヒト肺動脈平滑筋細胞を用い、このナノカプセルの取り込みと細胞生存率への影響を評価したところ、細胞増殖を抑制する効果が実証されました。 さらに、肺動脈性肺高血圧症モデルラットにこのメトホルミン内包ナノカプセルを投与した結果、血行動態、右室肥大、肺動脈中膜肥厚の改善が確認されました。このナノカプセルは、モデルラットの肺に効果的に蓄積することも確認され、投与による急性の副作用は認められませんでした。

肺動脈性肺高血圧症では、肺動脈内の炎症性サイトカインの増加が病状悪化に関与しているとされ、一方で、抗炎症作用を持つアデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼという酵素が病態進行を抑制することが報告されています。メトホルミンにはこのアデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼを活性化させる作用があり、これが肺動脈性肺高血圧症の改善に関与していると考えられます。
今回の研究で開発されたメトホルミン内包肺動脈標的型ナノカプセルは、メトホルミンを肺動脈へ局所的に作用させることが可能であり、肺動脈性肺高血圧症に対して安全かつ革新的な治療法となりうると考えられています。このナノカプセルが既存の肺動脈拡張薬や新規の肺動脈性肺高血圧症治療薬候補の効果を高める可能性もあり、さまざまな肺動脈性肺高血圧症の治療への応用が期待されるといいます。