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多発性硬化症治療薬候補Tolebrutinib、再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症(nrSPMS)で障害進行抑制効果を示す

仏サノフィ社は4月8日、第III相HERCULES試験の肯定的な結果がThe New England Journal of Medicine(NEJM)に掲載されたと発表しました。

多発性硬化症(指定難病13)は、中枢神経系の慢性的な免疫介在性疾患であり、時間経過とともに不可逆的な障害が蓄積する可能性があります。これにより、身体機能や認知機能が低下し、患者さんの生活の質に大きな影響を与えます。特に、再発が落ち着いた後も障害が進行する再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症(nrSPMS)においては、有効な治療法が限られており、新たな治療法の開発が強く望まれていました。現在承認されている多発性硬化症の治療薬の多くは、末梢の免疫細胞を標的としており、中枢神経系内の炎症には十分に対応できていないという課題がありました。

Tolebrutinibは、開発段階にある経口ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬です。BTKは、免疫細胞であるB細胞や、中枢神経系の免疫細胞であるミクログリアの活性化に関与しており、多発性硬化症における炎症や神経変性の一因と考えられています。Tolebrutinibは、血液脳関門を通過して中枢神経系に作用し、これらの細胞の働きを抑制することで、再発活動性とは無関係な障害進行を抑制する可能性が示唆されています。

現在、Tolebrutinibは、米国食品医薬品局(FDA)に対して再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症(nrSPMS)の治療および再発活動性と無関係な障害蓄積の遅延を適応とする承認申請が提出されており、優先審査が行われています。審査完了予定日は2025年9月28日です。欧州連合(EU)においても新薬承認申請が審査中です。

HERCULES試験では、再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症(nrSPMS)患者さんを対象にTolebrutinibとプラセボ(偽薬)の効果を比較しました。その結果、Tolebrutinibを投与された患者群では、6カ月持続する障害進行(CDP:複合的障害度評価スケールで定義)の発現までの期間が、プラセボ群と比較して31%遅延しました(ハザード比 0.69;95%信頼区間 0.55-0.88;p=0.003)。一方、再発型多発性硬化症(RMS)患者さんを対象としたGEMINI1およびGEMINI2試験では、主要評価項目である年間再発率(ARR)において、既存薬のTeriflunomide(テリフルノミド)に対する優越性は示されませんでした。しかし、重要な副次評価項目である6カ月持続する障害悪化(CDW)の発現までの時間について併合解析を行った結果、Tolebrutinib群で29%の遅延が認められました(ハザード比 0.71;95%信頼区間:0.53-0.95)。

安全性に関しては、HERCULES試験およびGEMINI試験のいずれの群においても、Tolebrutinibの忍容性は概ね良好でした。HERCULES試験では、一部の患者さんで肝酵素の上昇が見られましたが、ほとんどの例で特別な治療を必要とせず改善しました。現在では、より頻繁な肝機能モニタリングが実施されており、重篤な肝臓合併症の回避につながると考えられています。GEMINI試験の併合解析においても、Tolebrutinib群とTeriflunomide群で認められた有害事象は類似していました。

クリーブランドクリニック神経学研究所副所長(米国オハイオ州クリーブランド)、でHERCULES試験グローバル運営委員長のロバート・フォックス氏はプレスリリースにて、「Tolebrutinibは、多発性硬化症(MS)に対する新しいクラスの治療薬候補です。今回の大規模第III相試験は、MSのなかでも、現在、承認された治療薬が存在しないMSのサブセットであるnrSPMSの患者さんを対象として検討され、同剤が障害の進行を遅らせることが示されました。この試験の結果は、私たちがnrSPMSの治療薬候補を遂に見いだせたことを意味するものといえましょう」と述べています。

また、サノフィの神経領域開発グローバルヘッドのエリック・ヴァルストロム氏は、「Tolebrutinibは、血液脳関門内における障害進行のメカニズムを標的とする薬剤で、多発性硬化症(MS)と共に生きる人々にとって治療の在り方を変えるような選択肢となる可能性があります。今回NEJMに掲載されたデータは、治療パラダイムの転換を通じてMSの疾患全体にわたる障害を克服するという、当社の患者コミュニティへ対するコミットメントの成果のひとつです」と述べています。

なお、試験結果の初報は2024年9月20日にデンマーク・コペンハーゲンで開催された欧州多発性硬化症学会(ECTRIMS)で発表されており、詳細な解析結果は2025年4月8日、米国カリフォルニア州サンディエゴで開催された米国神経学会(AAN 2025)の臨床試験プレナリーセッションでも発表されました。

出典
サノフィ社 プレスリリース

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