ALSなど疾患の原因となりうるストレス顆粒内部の核酸濃度の測定に成功
東北大学は10月23日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やがんの創薬標的とされるストレス顆粒を測定し、ストレス顆粒内部の核酸濃度をその場で測ることに成功したと発表しました。
液-液相分離という現象によって細胞内で形成される生体分子の濃厚相(液滴)は、「膜のない細胞内小器官」と呼ばれ、細胞の区画化や反応場の提供などさまざまな役割を持っています。その一方で、液滴内にあるタンパク質の異常凝集により、筋萎縮ALSやがんなどを引き起こす原因となることも指摘されています。
近年、液-液相分離(LLPS)によって形成される液滴の特性や機能を理解するための測定手法として、分子の振動スペクトルを測定するラマン顕微鏡を用いた液滴の観察が提案されています。液滴のラマン画像を得ることで、液滴内外の分子の組成や構 造の情報を網羅的に得ることができます。
今回、研究グループは、細胞内液滴のひとつであるストレス顆粒を対象に、生きた細胞内の液滴のラマン画像を測定。ストレス顆粒の足場タンパク質G3BP1を近赤外蛍光タンパク質iRFPで標識し、ストレス顆粒の位置を蛍光で定め、その位置でのラマン測定を行うことで、ストレス顆粒のラマン画像を得る近赤外蛍光/ラマン顕微鏡を構築しました。
まずはじめに、亜ヒ酸ナトリウムの添加により酸化ストレスを負荷した細胞の近赤外蛍光およびラマン画像測定を行いました。酸化ストレスを負荷した細胞の近赤外蛍光画像において、細胞質に輝点が観察され、ストレス顆粒の形成が確認されました。ラマン画像においては、核酸、脂質の分布を示す画像中に近赤外蛍光画像に対応した構造が可視化され、生細胞内のストレス顆粒のラマン画像測定に初めて成功したと結論づけました。また、ストレス顆粒の内部は周囲の細胞質に比べて核酸が豊富で、脂質が少ないこと、タンパク質の分布を示すラマン画像ではストレス顆粒は可視化されないことの2つがラマン画像からわかりました。この結果から、内部のタンパク質濃度は周囲と変わらないことが明らかになりました。

次に、ストレス顆粒がどのような顆粒なのかを知るために、ストレス顆粒内と
細胞質の生体分子の混雑度(平均生体分子密度)の比較を実施。水分子の濃度を反映するO-H伸縮振動のラマンバンドの強度に対する、細胞内の生体分子の総濃度を反映するC-H伸縮振動のラマンバンドの強度比を計算することで、分子密度の比較を行うことができます。測定の結果、酸化ストレスを負荷した細胞では、細胞質およびストレス顆粒のバンド強度比の違いは5%未満でした。ストレスを負荷していないコントロールの細胞に比べると細胞質、ストレス顆粒のどちらもバンド強度比が高くなり密度は高くなっているものの、ストレス顆粒内は周囲の細胞質よりも強度比が低く、周囲よりも密度が低いことがわかりました。

最後に、水のラマンバンドを内部強度標準として濃度定量を行う手法を応用し、ストレス顆粒内部の核酸の濃度定量を行いました。細胞外の水のラマンバンドを利用して、核酸に由来するラマンバンドの強度と核酸濃度の関係を表す検量線を作成し、ストレス顆粒および細胞質、核、核小体の核酸濃度のその場絶対定量に成功。ストレス顆粒内部の核酸量は周囲の細胞質に比べて20%高く、ストレス顆粒内部に豊富に存在する核酸が、顆粒内部の分子混雑環境を制御している可能性が示されるといいます。

以上の研究成果より、胞内のストレス顆粒は周囲の細胞質よりも分子密度が顕著に高くないこと、高浸透圧ストレス顆粒では、細胞質に比べて顆粒内部は分子の混み合いが少ない疎な環境に維持されることが示されました。今回、提案された手法は、液滴のみならずあらゆる細胞内小器官の局所濃度を定量することができ、生命科学研究において幅広い応用が考えられるとしています。

同研究の成果は、「Analytical Chemistry」に10月15日付で掲載されました。
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