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多発性硬化症(MS)の進行や難治化に関連する腸内細菌を発見

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)と理化学研究所の共同研究グループは9月30日、中枢神経系の自己免疫疾患である多発性硬化症(MS)の重症患者さんの腸内細菌叢から、多発性硬化症(MS)の進行や難治化に関連する腸内細菌「Tyzzerella nexilis(ティザレラ菌)」を同定し、その中に神経炎症を悪化させる機能があり、特殊なゲノムを持つB株が存在することを発見したと発表しました。

多発性硬化症(指定難病13、MS)は、脳や脊髄、視神経に炎症を起こし、神経障害が再発と寛解を繰り返す中枢性脱髄疾患のひとつです。多発性硬化症(MS)の一部は神経障害が改善することなく悪化し続けていく二次性進行型多発性硬化症(SPMS)へと移行します。二次性進行型多発性硬化症(SPMS)に対する治療薬の効果は非常に限定的であり、その新規治療法開発は待たれています。

今回、共同研究グループは、腸内細菌叢に存在する多種多様な細菌を網羅的かつ詳細に解析できるメタゲノム解析を活用。二次性進行型多発性硬化症(SPMS)の病態に関わる腸内細菌の特定に取り組みました。

多発性硬化症(MS)を悪化させる細菌の候補を見つけるために、29人の健常者、NCNP病院に通院中の62人の再発・寛解型多発性硬化症(RRMS)患者さん、15人の二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者さんの腸内細菌叢をメタゲノム解析により調べました。

画像はリリースより

その結果、二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者さんの腸内細菌叢で最も特徴的な菌種としてティザレラ菌(Tyzzerella nexilis)を発見。さらに腸内細菌叢の中にティザレラ菌が多い患者ほど、脳のMRI画像から計算される脳萎縮の程度が大きく、神経障害が強い傾向があることがわかり、ティザレラ菌は多発性硬化症(MS)の難治化と密接に関連する菌種であると考えられました。

画像はリリースより

さらに、解析を進めたところ、ティザレラ菌にはゲノム構造が大きく異なるA株とB株が存在し、2つの菌株の分布が多発性硬化症(MS)の病型によって異なっていました。A株は健常者、再発・寛解型多発性硬化症(RRMS)患者さんと二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者さんの間に分布の違いがありませんでしたが、B株は二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者さんでのみ顕著に多く存在する特殊な株であることがわかりました。

次に、全ゲノム配列を正確に決定できる最先端のロングリードシークエンスという技術を用いて、A株とB株のそれぞれの全ゲノム配列を構築しました。その結果、多発性硬化症(MS)の進行に関連するティザレラ菌B株は、「水平遺伝子伝播」と呼ばれる、進化とは異なる遺伝子獲得機構によって驚くほど多くの遺伝子を獲得し、極めてまれなゲノム構造を持つ“異型”細菌株であると考えられました。

画像はリリースより

次に、“異型”の腸内細菌がなぜ二次性進行型多発性硬化症(SPMS)で増加しているのか、B株が持つ機能の解析を進めました。すると、B株のゲノム上の水平遺伝子伝播によって得られたと推測された領域には特徴的な機能に関連する遺伝子として、硫酸還元に関する遺伝子と鞭毛に関する遺伝子が見つかりました。また、電子顕微鏡により、B株だけが鞭毛を持っていることが明らかになり、B株の鞭毛は、大腸において炎症を誘導するT helper 17(Th17)細胞を活性化させる機能があり、病気を悪化させる方向に働くことがわかりました。

画像はリリースより

最後に、腸内に細菌が存在しない無菌マウスにA株またはB株を単独で定着させ、A株のみを持ったマウス、B株のみを持ったマウスを作製。これらのマウスに、多発性硬化症(MS)のモデルとして使用されている実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導する処置を施し、マウスに生じた神経障害の強さを比較しました。その結果、B株を定着させたマウスでは、神経障害が強くなることを示しました。これにより、ティザレラ菌B株がヒトの多発性硬化症(MS)に対しても高い病原性を獲得していることが強く示唆されたとしています。

画像はリリースより

以上の研究成果より、多発性硬化症(MS)の難治化に関連する“異型の”腸内細菌株としてティザレラ菌B株が発見されました。同研究の範囲では、糞便中でティザレラ菌が増える疾患は多発性硬化症(MS)に限られているため、この腸内細菌を標的とする薬剤開発は多発性硬化症(MS)の進行を予防する根本的な戦略につながる可能性があります。

なお、同研究の成果は、「Cell Reports」オンライン版に9月27日付で掲載されました。

出典
国立精神・神経医療研究センター(NCNP) プレスリリース

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